抄録
キク(Chrysanthemum morifolium)の茎頂にパーティクルガンで金粒子を撃ち込み,培養すると成長の極めて旺盛なシュートが複数伸長する.‘神馬’の茎頂に撃ち込み処理を行った場合,1 つの茎頂あたり発生したシュートの平均生体重は非撃ち込み個体の 10 倍以上であり,茎頂あたりの平均展葉枚数も撃ち込み区で多かった.平均展葉枚数は金粒子の量を増やすにつれて多くなった.また,穴の大きさの異なるナイロンメッシュで茎頂部を覆い,メッシュの上から撃ち込みを行うことで茎頂分裂組織に大きさの異なる破壊を施したところ,破壊部が大きくなるにつれ茎頂あたりの平均展葉枚数が多くなった.成長旺盛なシュートが金粒子の撃ち込まれた茎頂分裂組織に由来するのか否かは,形質転換体を得る上で重要な情報となる.そこで,一部あるいは表面全体が破壊された茎頂分裂組織の破壊処理後の経時変化を観察した.全体が破壊された場合には破壊部は修復されず,側芽の発達が観察された.部分的に破壊された茎頂分裂組織は破壊部を修復したが,この場合にも側芽の発達が認められた.これらの結果から,金粒子を撃ち込んだ茎頂を培養すると,茎頂分裂組織の破壊程度にかかわらず,葉原基の基部から成長旺盛な側芽が発達することが分かった.そこで,撃ち込み処理を行った後に,葉原基を含まない茎頂分裂組織(超微小茎頂分裂組織)を摘出し培養したところ,側芽が発達することはなく,茎頂分裂組織の修復が認められ,修復された茎頂分裂組織から 1 本のシュートが発達した.以上より,撃ち込み後に発達する成長旺盛な複数のシュートは側芽由来であると結論した.最後に,形質転換体の作出に有効かつ汎用的な方法として,茎頂分裂組織への微小な傷つけ処理と超微小茎頂分裂組織培養を組み合わせた技術を開発した.