抄録
ニホングリの雌花の発達過程および受精を理解するために,花粉管伸長の場として働く花柱誘導組織について分化様式を形態学的手法により検討した.開花期に着目し,子房基部から円筒状の花柱が形成される部位までの横断面の連続切片を作製した.観察の結果,隔壁数と同数の花柱が形成されること,花柱が円筒状になるとともに花柱誘導組織が分化,発達することが明らかになった.子房の上部では,隣接した隔壁同士が接合するその接合面において花柱誘導組織の細胞が形成された.円筒状になる花柱の表皮は花柱誘導組織を囲んでいる皮層柔細胞から発生した.クリの花柱誘導組織は柱頭上面に達していた.胚珠は短く,厚い珠柄で花柱基部の胎座に合着し,珠孔は上面に開いているが,倒生型であった.花柱の誘導組織の基部側の末端と子房の上部との間は中空であり,この空隙は花粉管の伸長に重要な役割を果たすものと考えられた.