Journal of the Japanese Society for Horticultural Science
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総説
収穫後園芸作物のストレス処理による品質保持とその機構解明への取り組み
山内 直樹
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ジャーナル オープンアクセス

2013 年 82 巻 1 号 p. 1-10

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抄録
園芸生産物を高品質で保持するためには,収穫後直ちに低温下で流通・貯蔵することが求められる.しかしながら,エネルギー効率の面からは常温もしくは弱低温下での流通・貯蔵ができれば有用性は大きい.本研究は収穫後のストレス処理(高温–温風・温湯,紫外線–UV-B)による常温もしくは弱低温下での品質保持効果とその機構を解明するため,特にクロロフィル(Chl)分解が主な品質低下要因となる緑色青果物を取り上げ,まずストレス処理による黄化(脱緑)抑制効果を調べた.次に,ストレス処理による活性酸素の生成とその消去システムであるアスコルビン酸–グルタチオン(AsA-GSH)サイクルの品質保持に果たす役割について調べ,さらに,Chl 分解機構の解明とストレス処理によるその制御について検討した.収穫後のストレス処理は,貯蔵中の老化に伴う緑色青果物の Chl 分解を効果的に抑制した.ブロッコリー花蕾とライム果実を用い調べたところ,ストレス処理により生じた過酸化水素が AsA-GSH サイクルの活性化を誘導し,そのサイクルの活性増大が老化抑制につながっているものと推察した.次に,ブロッコリー花蕾と緑色香酸カンキツの長門ユズキチを用い,ペルオキシダーゼ(POX)が関与する Chl 分解機構とストレス処理による Chl 分解酵素の制御機構について検討した.POX はパラ位に水酸基を持つアピゲニン,ナリンギン,p-クマル酸などのフェノール化合物を酸化し,生成されたフェノキシラジカルが Chl a を分解し,132-ヒドロキシクロロフィル a を経て無色の低分子化合物に変化するものと推察した.この Chl 分解に関与する POX はカチオン型アイソザイムでありクロロプラストに局在すること,また,花蕾の黄化にともない増大し,ストレス処理により効果的に抑制されることを認めた.さらに,POX 以外の Chl 分解酵素の活性変化と遺伝子発現について調べたところ,ストレス処理により抑制されることが明らかとなった.このように,ストレス処理は緑色青果物の貯蔵中における Chl 分解を制御し,品質保持に有用な方法であることを認めた.
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© 2013 園芸学会
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