園芸学会雑誌
Online ISSN : 1880-358X
Print ISSN : 0013-7626
ISSN-L : 0013-7626
二十世紀梨の黄痣斑に關する二三の知見
平野 英一
著者情報
ジャーナル フリー

1939 年 10 巻 1 号 p. 1-19

詳細
抄録
1. 黄痣斑は, 表皮が褐色になりて龜裂し其下層にコルク層が發達した部分と緑色果面に發達した褐色の龜裂群のみから出來て居る部分とがあるが, 之れは主として被害程度の相異に基くものであつて或種の生理障害に依つて生ずるものだと認められる。
2. 前記の褐色龜裂は果面に豫め生じて居つた無色のクチクラ層の龜裂から續發する。從て兩種の龜裂は關係が深い。クチクラ層の龜裂は果實の發育關係の外に光線にも關係があつて陽光面に疎少, 日陰面に密多である。
3. クチクラ層の龜裂が更に其深さを増すか又は龜裂に沿ふ表皮系の細胞が死すると龜裂は褐變し後日其部分にコルク組織が發達して黄痣性龜裂となる。
4. 兩種の龜裂は果面の部位に據つて夫々特有の配列をする。
5. 表皮の褐變は褐色龜裂の密群が發生後漸次に生ずる事もあるが, 黄痣斑の發生原因が作用すると同時に變色する事も多い。
6. 黄痣斑は發生後も擴大する事がある。從つて採果時期が遲れると被害を増進する傾向がある。
7. 大型果點の周圍の表皮は龜裂を生じ易いから, 大型果點は黄痣斑を誘發し易いと考へる。
8. 黄痣斑は藥害, 陽光の直射等によつても發生するが, 水の果面接觸に依つても發生する場合が多い。水接觸の機會は袋掛後に於ても多いから, 袋掛後も相當發病する。
9. 接觸水の害は. 摘採した幼果に付て實驗した結果によると, 氣孔或は未完成果點部が最も早く褐 (或は黒) 變し次て其周圍の表皮系組織が變色する。間もなくクチクラ層の龜裂が變色して最後に果點間の表皮系が變色する。此種の被害は温度が高く且つ水の接觸時間が永い程容易に起り易い。
10. 樹上果に就て夏期中接觸水の影響を實驗した所によると, 果面に水分が一兩日間接觸すると接觸跡の果點部 (或は氣孔部) は主として黒色の大型果點となつたのみであるが, 數日間以上に及ぶとクチクラ性龜裂又は表皮が更に褐變し後には黄痣斑となつた。農用石鹸水溶液を水に代用した場合には一層短時日にて果皮が變色し後には激甚な尻黒病 (俗稱) 類似果となつた。
11. 接觸水が被害を生ぜしむる眞因は不明である。
12. 接觸水又は飽和水蒸氣は共に果點部に軟鬆なコルク組織の發生を屡ゝ見たが後日硬結した。
13 果實の發育作用は黄痣斑發生に或る種の關係がある樣であるから豫防上此方面に多少の留意を要するかも知れぬが主要原因とは考へ難く思はれる。
14. 夏季前後は高温であつて果實の發育も旺盛だから接觸水による本病發生には好都合かと考へる。
15. 接觸水による本病の發生豫防方法に就て二三の私見を本文中に述べて置いた。
著者関連情報
© 園芸学会
次の記事
feedback
Top