園芸学会雑誌
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低温地方に於ける梅と杏に關する二三の知見
(一) 接木繁殖と生長ホルモンの實用的效果
川上 繁石丸 昌次郎
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1940 年 11 巻 4 号 p. 450-473

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抄録
1. 梅の春季枝接繁殖は, 活着困難なりとせらるゝが, 杏との雜種性強き系統の品種は, 比較的活着良好にして, 梅性梅の品種が, 概して活着不良なる別がある。
2. 此の兩系統間の, 接木活着率の差異を生ずる, 主要なる原因は, 兩系統の低温障害に對する受容性の相違に依る。即枝梢の構造, 組成の差のみならず,生長休止期乃至は之に供ふ休眠の深淺に著しき差異が認められ, 低温障害の基礎的原因をなして居る。
3. 梅枝梢の低温障害は, 其の冬の最低温度に律し得られず, 梅性梅にても, 其の冬の最寒期間を經過して, 尚休眠の破れざる間に (2月5日) 母樹より採取して, 直ちに接木に供せる穗木は, 鉢植して完全なる防寒並に休眠打破を防止せる穗木に次いで, 良好なる活着率を示した。
4. 12月15日に採取し, 露地にて0°C以下の氣温を經驗せず, 室内濕砂中に貯へられし穗木は, 著しき低温を經驗せざるに拘らず, 梅性梅の穗木は活着極めて不良であつた。其の原因は水分を吸收して, 枝梢の成熟程度を減じ,且貯藏中の僅の温度の上昇に依りて, 休眠状態の破れたるに, 基因すると考へられる。
5. 露地母樹上の穗木は, 2月中下旬より休眠状態が破れて, 低温障害を蒙るに至ると認められ, 接木時 (4月5日) に於ける穗木は, 外觀にては判別し難けれども, 芽部の障害を受けて, 活力を減じて居ると認められる。
6. 杏並に杏性雜種系統の梅は, 休眠の破れ難きと, 枝梢の構造, 貯藏養分等の條件良好にして, 貯藏穗木, 接木時採取穗木, 露地接木等の間に於ても,著しき活着率の差が無かつた。
7. 梅枝梢の低温障害の限界温度は, 内部的, 外部的, 諸條件の錯雜せる綜合的結果にして, 決定困難であるが, 不利なる條件の下にては-4°C附近に其の限界ある可しと思惟される。
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