抄録
1961~1962年に愛知県安城市において, 尾張温州ミカンの最大蒸通発量の測定を自動給水装置付きライシメーターによつて行なつた。この測定値を THORNTHWAITE の式による計算値と対比した。これと平行して知多半島南部において, 水分収支計算によつて実況蒸通発量の見積りを行なつた。カンキツ園の土壌断面からの水分損失量は見積られた積算消費水量と積算有効雨量の差として与えられ, これは採土調査から得られた値と比較した。そしてこれにより BLANEY and CRIDDLE 式の作物係数および蒸発計蒸発量の比例係数を決定した。
1. 最大蒸通発量, 各月および年間の測定値 (ライシメーター法) と THORNTHWAITE による式の計算値を表示 (第1表) した。
実測値は計算値に比べて全年合計値において約100mm多かつた。また, 後者が7月に最高を示すのに対し, 前者は8月が最高で9月がこれに次ぎ, 水分消費図形として約1月のおくれが見られた。
2. 温州ミカンの成木園の最大蒸通発量を見積るために, 樹容比 (樹冠容積/土地面積) を求めた。ライシメーター実験におけるこの指標は, 30年生温州ミカン園で測定した圃場値に比べ20%低い結果を得た。蒸通発散が樹容比の増大に均衡して増加するものと想定するならば, 最大蒸通発量の年合計値は1,200mm程度となる。この値は, よく繁つた枝葉と, 適湿を保持した土壌中に大きな根群を持つた成木ミカン園からの蒸発散としての最大値に近いものと思われた。
3. 実況蒸通発量 (消費水量) これは次のように計算した。U=P.W.L.+R Uは消費水量, P.W.L. は断面水分損失, Rは有効雨量, また, BLANEY and CRIDDLE 式の作物係数と蒸発計比例係数は次のように決定した。a) 6月~10月, U=0.5F, U=0.8E b) 11月~5月, U=0.4F, U=0.8E
ここでFは BLANEY-CRIDDLLE 函数, Eは蒸発計蒸発量である。以上の計算値による季節的変化および年間値を表示 (第6表) した。
4. 総括 これらの諸成績から次の結論が得られた。すなわち, 葉量の豊かな地表面が圃場容水量に保持されている場合の最大蒸通発量は7mm/day (最盛需要期) であるが, 実況の蒸通発量としては土壌断面が湿つた状態で5~6mm/day, 比較的乾いた状態で3~4mm/day の範囲にあると推定された。