抄録
培地中の過剰のNaClによる蔬菜の生育阻害の機構に関して, 浸透圧の作用とNa+やCl-イオンの特異的作用のいずれが一次的原因をなすか, Caの吸収阻害は培地の浸透圧の高まりとNa: Ca の拮抗作用のいずれによるか, Na+やCl-イオンの直接的害作用などの諸点を解明し, さらに海水塩類とNaClの作用を比較検討する目的から, 無加温のガラス室内で砂耕試験を行なつた。すなわち, ホウレンソウ, カブ, セルリー, ネギ, インゲン, フダンソウを供試し, 約0.6気圧の滲透圧を有する HOAGLAND, ARNON 液を基本培養液 (B.N.)として, 海水塩類 (主要5種塩類), NaCl, Na2SO4, CaCl2, MgCl2などを, 2, 4気圧 (フダンソウは4, 8気圧) に加用し, なおこれらの塩類加用培養液と同等の浸透圧 (2.6, 4.6, 8.6気圧) を有するB.N.濃化区を設けた。
1) 一般に生育阻害は培養液の浸透圧の増大とほぼ直線的関係を示し, かつ塩類の種類とは無関係に等浸透圧ではほぼ同等の生育阻害をきたすことから, 各種の過剰塩類による生育阻害では, イオンの特異的作用よりも浸透圧の作用が一次的原因をなすことが伺われた。ただMgCl2区は一般に生育阻害が著しかつた。またフダンソウでは, 塩化物区は共通して生育が劣り, かつ黄化症状を呈し, 明らかにCl害が認められた。Na塩は, ホウレンソウやセルリーの新鮮重収量に対して有益な効果を示したが, セルリーではCa欠乏の発症を助長した。
2) 過剰塩類が蔬菜のCa吸収に及ぼす影響について検討した結果は次のとおりであつた。すなわち, B.N. 濃化区および CaCl2 区における葉中のCa集積から, セルリーでは培養液の浸透圧の高まりによるCa吸収阻害が顕著に認められたが, 他の多くの蔬菜ではそれが認められぬか, もしくは軽微であつた。セルリーの示す特性はCa欠乏の発症と重要な関連があるように思われる。また一般にNaCl, Na2SO4, MgCl2区では, 加用カチオンとCaとの間に拮抗作用が認められたが, 等浸透圧においてはMgCl2区が最も著しいCa吸収阻害を示した。とくにNaCl区については, 蔬菜のNa集積能力に応じてNa : Caの拮抗作用が認められたが, セルリーでは浸透圧の高まりがCa吸収阻害の主原因をなすようである。また一般に, 海水塩類区はNaCl区よりもやや低いCa含量を示したが, これはMg++の影響によるものと推定される。
3) Na+やCl'イオンの害作用は, フヅンソウにおけるCl害以外には, とくに認められなかつた。
4) 海水塩類区とNaCl区とは, 等浸透圧においては, ほぼ同等の生育, 外観を示し, なお葉の無機組成も一般にMg以外の要素については両区間で大差がないことから, 海水塩類の示すイオンの作用は, 主として Na+およびCl-によるものと考えられる。なおこの点に関しては, 実際の海水の塩類組成からも考察を加えた。