抄録
1. 10年生の温州ミカンについての肥料の種類比較の二つの試験, 6年生の温州ミカンについての母材別土壌の比較試験からえられた8年間の果実の可溶性固形物および酸と, 夏季および秋季における降水量との関係を解析し, つぎの結果をえた。
2. 8年間の年ごとの可溶性固形物の変化は, 三つの試験の間でまつたく同じ様相を示した。また, 酸および甘味比の変化も同様で, 酸には前年対比でみたとき隔年ごとに増減する傾向があつた。8年間の7月後半 (16-31日), 8月, 9月および10月の降水量は, 平均では9月が最も多く, 8月と10月はほぼ同じであつた。しかし年による差が著しいのは, 各月とも同じであつた。
3. 可溶性固形物, 酸と7月後半から10月までの各月の降水量との間には, まつたく有意な相関がなかつた。しかし, 土壌浸透水を差引いた10月および9-10月の降水量と可溶性固形物との間には負の有意な相関があり, さらに8-9月の浸透水差引き降水量との間にも同じ傾向があつた。また酸と10月の浸透水差引き降水量との間には負の相関が高かつた。
4. 以上の関係は, 各地で行なわれた灌水試験の結果とよく一致し, 降水の多少は土壌の乾湿の度合となつて影響することを示した。先報の気温の影響 (とくに酸に影響する) に比べたとき, 降水量の影響は可溶性固形物, 酸いずれにも反映し, むしろ影響の度合が強いかあるいは影響があらわれやすいようにおもわれた。
5. 降水量の多少は, 土壌の種類や施肥 (たとえば窒素施用量) などの相違よりも, 果実の品質に強く影響する場合があることを指摘することができた。
6. 8年間の各月の気温 (有効積算温度) と降水量との間には有意な相関がなかつた。可溶性固形物, 酸と有効積算温度および降水量との偏相関から, とくに酸, 甘味比と9-10月の有効積算温度との関係が密接 (酸は負甘味比は正) であることが導き出された。しかし, 気温と降水量とが相互に組みあわされた影響については, 今後の解析が必要であつた。