1972 年 41 巻 4 号 p. 376-382
マツバボタンを材料として, さし穂の茎を下降する体内生長物質と体外的に切り目に挿入されたIAAとNAAとがそれぞれ切り目の下部とその反対側における不定根の始原体の分化にどのような影響を及ぼすかを解剖的立場から調べた.
1. 摘葉によって不定根の始原体の分化は阻止された. さらに, 茎の基部に切り目を入れることによつてその下部では全く分化しないが, その切り目にIAAとNAAを含む寒天片を挿入すると若干分化が認められた.
2. 有葉の場合でも切り目を入れることによつて, その下部の不定根の始原体の分化は阻止されるが, IAAとNAAを含む寒天片を切り目に挿入することによって若干分化が行なわれた. この場合, IAAとNAAの低濃度のほうが効果的である.
3. 有葉のさし穂で切り目の反対側においては不定根の始原体の分化は盛んであるが, IAAを切り目に挿入すると, この分化はさらに促進される. この場合, IAA10-11Mで最も促進された. そしてこの実験を通してIAAはNAAより不定根の始原体の分化を促進する効果が大である傾向が認められた.
4. 切り目にIAAとNAAを含む寒天片を挿入することによつて, 不定根の始原体は無処理のそれにくらべさし穂の基部の切断面により近い位置に分化する傾向が認められた.
5. 有葉のさし穂においては, 切り目にIAAとNAAを含む寒天片を挿入することによつて, 不定根の始原体は無処理区のそれにくらべずい線の柔細胞に多く分化する傾向が認められる.