抄録
近年, わが国において施設下でのブドウの加温促成が盛んに行なわれるようになつてきたが, 促成開始期の自然目長はふつう10~11時間という短日であるため, 促成上問題があるものと思われる. そこで, 制御温室 (コイトトロン) を用い, 日長と温度条件の組み合わせによつて, (i) 20°C-短日 (自然光8時間), (ii) 20°C-長日 (自然光8時間+補光8時間), (iii) 30°C-短日, および (iv) 30°C-長日, の4処理区を設け, 欧•米2品種 (米国系: デラウェア, 欧州系: マスカット•オブ•アレキサンドリア) の樹体生長ならびに花房分化に及ぼす影響を接木後1年生の苗について調べた.
1. デラウェアでは, 新しよう生長•花房分化ともに温度のいかんにかかわらず短日で著しく劣り, 長日ですぐれ, 同じ長日では20°Cよりも30°Cでよりすぐれた. ただし, 30°C-長日では初期の生長が著しく促進されたためか, 新しよう基部節位のえき芽はほとんど花房分化しなかつた.
2. それに対して, マスカット•オブ•アレキサンドリアは新しよう生長•花房分化ともに温度に強く影響され, 日長には比較的鈍感であつた. すなわち, 新しょう生長は短日では20°Cで著しく抑制されたが, 30°Cではかなりの生長がみられた. 花房分化は30°C-長日でもつともすぐれ, 30°C-短日がこれにつぎ, 20°C-短日, 20°C-長日の順に著しく劣つた. とくに, 20°C-長日では新しよう上のいずれのえき芽も全く花房分化しなかつた.
3. 以上の結果より, 施設下でその空間を有効に利用するためには, 新しよう生長•花房分化の点からみて, デラウェアでは20°C-長日が, マスカット•オブ•アレキサンドリアでは30°C-長日が好適条件のようにみえた. ただし, 根の生長や新しようの木化は両品種とも一般に長日よりも短日ですぐれた.