抄録
生長抑制剤SADH (Bナイン) 及びCCCの花房浸漬処理を, 満開前約25日から満開までの異なる時期に, それぞれ巨峰及びマスカット•オブ•アレキサンドリアについて行い, 着果や着果に関連する諸要因に及ぼす影響を調べた.
満開前25日, 18日及び11日前のSADH 2,500ppm花房浸漬処理は, 巨峰の有核果の着果を有意に促進したが, 4日前の処理は効果を示さなかった. しかし, 4日前処理は無核果の着果を顕著に増加し, 11日前処理にもその傾向が認められたが, 18日及び25日前処理では逆に無核果が減少した. 一方, マスカットを用いた3年間の実験において, 満開前約25日から10日の間に行ったCCC 200ppmの花房浸漬処理は, 毎年安定的に着果 (大部分が有核果と推定される) を促進したが,それより開花期に近い処理はほとんど影響を与えなかった. 更に初年度の実験では, 着果数の増加したCCC処理各区で果実当たりの種子数も有意に増加した. しかし, 2, 3年度には, 同様の傾向が一部で認められたものの, 両者の関係は初年度ほど密接ではなかった.
マスカットにおけるいずれの時期のCCC花房浸漬処理も, 3年間の実験を通じて着果期までの新梢生長に有意な影響を与えなかった.
巨峰におけるSADHの各時期別処理特に早い時期の処理は, 開花着果期の小花 (果粒) の量的発育を有意に抑制した. しかし, マスカットのCCC処理では, そのような明りょうな影響は認められなかった.
開花始期及び満開直後の巨峰の小花 (果粒) 中の内生サイトカイニン含量は, 早い時期のSADH処理により増加したが, ジベレリン含量には一定の傾向が認められなかった. また, SADHの時期別処理のいずれも, 満開直後の果粒中のたん白態N, 全N含量を増加し, 還元糖及び全糖含量を減少した. マスカットにおけるCCCの早い時期の花房処理も, 満開後2日及び9日後の果粒中のそれらの含量に同様の影響を及ぼした.
これらの結果と前報までの結果を総合して, ブドウにおける生長抑制剤の着果促進機構を考察した.