抄録
中•晩生カンキツ類に多発する果皮障害の発現機構に関する基礎的知見を得るために, 貯蔵中に顕著な障害がみられたマーコット及びフナドコ果実を用いて, まず, それらの発現に伴う褐変反応の機構について, 抽出液の吸収スペクトル及び差スペクトルの面から追究した.
1. マーコット果皮の健全部抽出液が黄橙色であるのに比べ, 障害部抽出液は淡褐色を呈していた. 両抽出液の差スペクトルは325nm 付近に負方向のピーク, 295nm付近に肩を示し, それは健全部抽出液にポリフェノール酸化酵素を作用させた時に得られる差スペクトルとほぼ一致した. さらに, これらと同様の差スペクトルはクロロゲン酸の酵素的酸化の際にも認められた. 両抽出液についてDEAE-セルロースクロマトグラフィーを行ったところ, 障害部抽出液の場合には健全部でみられたクロロゲン酸同族体と思われるピークが消失した.
2. フナドコの場合, 障害部及び健全部抽出液の差スペクトルにはクロロゲン酸同族体の酸化に起因すると思われる325nm 付近の負方向のピークのほかに, 265nm付近にも負方向の大きなピークが認められた. この265nm 付近のピークは健全部抽出液にアスコルビン酸酸化酵素を作用させた際にも認められた.
以上のことから, 果皮障害発生果皮にみられる褐変は主としてクロロゲン酸酸化系に起因するのであろうと考えられた. さらに, この褐変反応にアスコルビン酸酸化系が寄与する可能性も示唆された.