抄録
ツバキ属植物のアントシアン色素としては従来の二次元展開の薄層 (セルロース) クロマトグラフィー法を援用すると, 合計14個のスポットを検出できる (11). このうちスポット1はシアニジン3-グルコシドでヤフツバキやユキッバキの主要色素である. ところが, ユキツバキの花弁に含まれるこのスポットを高速液体クロマトグラフィー (HPLC) 法で分析したところ, シアニジン3-グルコシドの他にシアニジン3-ガラクトシドが検出された. ツバキ属植物でのこのシアニジン3-ガラクトシドの存在の確認は初めてのことである.次いで, ヤブツバキ, ユキツバキ, サザンカ及びハルサザンカの園芸品種におけるシアニジン3-ガラクトシドの分布の様相を調べたところ, 総色素に対するシアニジン3-ガラクトシド量はヤブツバキで12%, ユキツバキで34%, サザンカで1%及びハルサザンカで7%であった. つまり, ユキツバキは他品種群に比較して高いシアニジン3-ガラクトシドの含有率を示す点で特徴的であった.
また, 各園芸品種群のシアニジン3-グルコシドとガラクトシドの量に関して個体の分散をみると, ユキツバキでかなり幅広い変異が見られたことも特徴的であった.
以上の結果は, 前報 (11) で述べた二次元薄層クロマトグラム上の各色素スポットと同様, シアニジン3-ガラクトシドもまたツバキ属植物の種や品種群を分類するための指標として使用できることを示唆している.