抄録
イブリ•フランを台木とした鉢植え及びベンチ植えの‘マスカット•オブ•アレキサンドリア’樹について, 加温条件下で12月と2月から地温を13°Cと27°Cに調節し, 樹体内の炭水化物栄養に及ぼす影響を生育との関連において調査した. 比較のために無加温樹についても同様の分析を行った.
1. 12月, 2月加温ともに13°C区よりも27°C区で発芽並びに新梢生長が優れ, 特に12月加温で地温による差が大きかった. 花穂の発育は, 12月加温では13°C区よりも27°C区で優れたが, 2月加温では地温間での差は小さかった.
2. 無加温樹の場合, 各部位ともデンプン含量は11月以降発芽期まで減少し, 特に根での減少が大きく, 一方全糖含量は1~2月にピークに達した後, 発芽に向けて減少し, 特に結果母枝での減少が大きかった. 加温樹の場合, 結果母枝の全糖含量は, 2月加温では両地温区とも処理後急減したが, 12月加温では増加後減少して発芽し, 特に発芽の優れた27°C区で大きな変化を示した. デンプン含量は, 細根では両加温時期とも27°C区での減少が大きかったが, 結果母枝では地温による差は小さかった. 幹及び太根におけるこれらの変化はそれぞれ結果母枝及び細根のそれとほぼ同様であった.
3. 樹液の糖濃度は, 無加温樹では展葉期に, また加温樹ではいずれの処理区でも発芽期に最も低かった. いずれの加温時期及び採取時期とも13°C区よりも27°C区の糖濃度が低かった. 展葉期の新梢のデンプン及び全糖含量は, 2月加温よりも12月加温で多かった. 両者とも2月加温では地温による差は小さかったが, 12月加温では13°C区よりも新梢や花穂の生育が優れた27°C区で少なかった.
4. 以上のことから, 12月加温の低地温区における生育不良には, 加温後発芽までの樹体内での炭水化物栄養の変化が小さく, また短期間に行われること, さらに新梢での糖の利用が小さいことが深く関係していると推察された.