抄録
1.7種類のおがくずおよび樹皮からの水抽出物をイネの生物検定にかけて生育阻害効果を調査したところ, 阻害効果が見られた樹種はヒノキ, ベイマツ, ベイツガ, アカマツおよびアピトンであった. 特に, ヒノキおがくずや樹皮, ベイマツおがくずや樹皮, 並びにアカマツおがくずの阻害効果は著しかった. しかし,スギおがくずや樹皮, ラワンおがくずではイネの生長がまったく阻害されなかった. 一方, イネの生長を阻害した樹皮抽出液に不溶性のポリビニルピロリドン(PVP) を加えた場合, 阻害効果はほとんど観察されなくなった. この結果は水抽出液中の阻害物質がフェノール系の物質であることを示している.
2.ヒノキ樹皮の水抽出物中の抑制物質を分析したところ, エチルエーテル分画では安息香酸, 没食子酸などのフェノール物質が, 酢酸エチルおよびn-ブタノール分画では縮合性タンニンが, イネやカラタチの生長を阻害した区分で検出された. 特に, 酢酸エチルおよびn-ブタノール分画の縮合性タンニンによるカラタチの生育阻害効果は著しかった.
3.ヒノキ樹皮から発生する揮発性の物質はカラタチ根の生長を阻害した. しかし, スギ樹皮の場合には明らかな阻害効果は観察されなかった. そこで, これらの樹皮から発生するガス, 特にテルペン類やエチレンの発生廿を分析したところ, ヒノキ樹皮からはα-ピネン, β-ピネン, D-リモネンなどが検出された.特に, α-ピネンの発生量は多かった. スギ樹皮では主にα-ピネンが検出されたが, その発生量はヒノキ樹皮の3分の1程度であった. α-およびβ-ピネンはカラタチ根の生長を阻害する傾向があった. 一方, ヒノキおよびスギ樹皮施用土壌からはエチレンの発生が見られたが, ヒノキ樹皮施用土壌からの発生量はスギ樹皮の場合と比べておよそ2倍多かった.