抄録
バラ切り花の開花に対するシスプロペニルポスホン酸 (PPOH) の前処理の影響を検討した. 'ソニア'をPPOHの5または10mM水溶液で20時間浸漬処理したところ, 両処理濃度ともに, 20°Cにおける生け水中での開花速度を遅くする (開花遅延) 作用が認められた. この時, 観察4日目までの吸水量はPPOH処理により低下傾向にあったが, 同時に蒸散量も低下しており, 切り花重の推移への影響はほとんど認められなかった. 1989年6月~1990年7月に実施した同様の試験結果の解析から, PPOHの開花遅延効果とその切り花中への取り込み量の間には, 有意な正の相関が認められた (P<0.01). 次に'カールレッド'を用いて, 実際の生産農家でPPOH前処理を行った. この試験でも, 生け水中での開花速度は, PPOH処理 (5または10mM, 30時間) により緩やかになったが,その効果は, 20°Cに比べて10°Cでより明瞭に観察された. この10°CでのPPOHの開花遅延効果は6時間の短時間処理でも再現された. また, PPOH前処理したバラを無処理のバラより10°Cでの観察期間を2日長くしても, 20°Cに移した後の開花は順調に進行し, また外観も無処理のバラと変わらないか, むしろ優れていた. 上記2品種の他に, 'ブライダルピング,'アールスメールゴールド'および'マリーナ'にも明瞭なPPOHの開花遅延効果が認められた. 以上のことから, PPOHの前処理はバラ切り花の開花速度を, 特に10°C保存下で, 緩やかにすることが明らかとなり,小売店などの冷蔵キーパー内での商品期間を延長することが期待される.