抄録
ごく短時間で簡単に行える, 正確かつ再現性のある植物組織内エチレン定量法を, リンゴ果実組織切片を使用し検討したので報告する。減圧によるエチレンの抽出とガスクロマトグラフによるその測定とからなるこの方法では, 切片の作成からガスクロマトグラフへのサンプルの注入までを約1分間で終えることができた. この方法により約80%の組織内エチレンを抽出し測定することができた. この方法の特徴は, 非破壊的に組織内のエチレンを定量できることであり, 1度使用した組織切片からのエチレン生成を引き続き測定できる. この方法を用いて, エチレン除去に伴う急激なエチレン濃度の減少がその後のエチレン生成に及ぼす影響を, エチレンを除去しない組織切片との比較により検討した. 組織切片からエチレンを除去すると, その後のエチレン生成量は, エチレンを除去しない組織からの生成量を上回った. しかし, このようなエチレン生成量の増加は, 組織内エチレン濃度の低い組織切片からエチレンを除去した場合にはみられなかった.このようなエチレンを除去した組織と除去しない組織とのエチレン生成量の差は, 組織内エチレン濃度が高くなるにつれて大きくなり, 差の大きさと組織内エチレン濃度との間には正の有意な相関があった. このことは, エチレンを除去しない組織において, 存在するエチレン濃度が高くなるとエチレンみずからがエチレン生成を阻害する, いわゆるエチレン生成の自己阻害が起きていることを示唆している.