園芸学会雑誌
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ニホンナシの花芽分化に伴う茎頂細胞中のカルシウムの分布とその変化
彰 抒昂岩堀 修一
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1995 年 63 巻 4 号 p. 725-738

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抄録

花芽分化におけるのCa2+の役割を究明するために,ニホンナシ噺水'の短果枝上の芽を材料にし, ピロアンチモン酸カリでCa2+を沈殿する方法とEGTA処理により電子顕微化学的にCa2+の検出を行った.1.花芽分化の進行に伴ってCa2+粒子の密度と大きさ, および局在性は顕著に変化した.
2.Ca2+粒子密度は細胞の分裂活性の程度によって異なった. 短果枝上の芽においては6月5日までは粒子数は少なく, しかも細胞中の色素体のみに存在した. その後, 粒子数は増加したが, 花芽が分化する直前に一時的に減少した. 6月26日, 茎頂の内体細胞が活発になった時, 粒子数は急激に上昇して最高になった. しかし, その後は7月3日, 7月10日と減少し, 7月17日萼片原基分化時に最も少なくなった.
3.花芽分化の前には細胞核中のCa2+粒子の密度は低く, その密度の増加は形態的な花芽分化が始まる兆候であった. 核内においてCa2+は主に核液中に分布し, 核仁の顆粒区域と核仁から放出されたようにみえる物質中にも存在したが, 核仁の繊維区域と染色体および集団クロマチンには存在しなかった.
4.細胞壁はCa2+粒子の主な分布場所であったが,花芽分化開始後細胞内Ca2+粒子密度が高い時期には細胞壁のCa2+粒子は逆に減少した. 一方, 液胞中には通常Ca2+粒子が極めて少ないが, 細胞中のCa2+粒子密度が急激に上昇した時には, 液胞中にもCa2+が一時的に多量に分布した.
5.色素体は6月5日までCa2+粒子の大部分をその中に保持し, それ以後においてもやはりCa2+粒子の主な分布場所であったが, 細胞内Ca2+粒子密度が急に上昇した6月26日には, 色素体内のCa2+は,逆に減少した. これに対して, ミトコンドリアとゴルジ体および小胞体中のCa2+粒子は細胞質のCa2+粒子密度と同じように変化し, 6月26日の花芽分化後に, 明らかに増加した.
6.Ca2+粒子の大きさは花芽分化の進行によって小さくなり, 7月10日に最小の状態になった. その後, Ca2+粒子密度が急速に低下することに伴って,粒子径は逆に増大し, 大きい状態で存在した.
7.これらの結果を基に, ニホンナシの花芽分化における細胞中Ca2+の役割について考察した.

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