抄録
秋季に'宮内伊予柑'を供試し, 注射針で果実内にABAを注入し, ABAが果肉の糖と有機酸濃度に及ぼす影響を調べた.
1.9月上旬に, ABAの0.2,0.6,1.2μmolを,それぞれ100個の果実に注射した. ABAの注入量が多いほど落果が多くみられた. しかし, 0.2μmolのABAでは, 16日後でも92%は落果しなかった.
2.果実内でのABAの代謝速度を調べるために, 9月上旬に, 枝付きの果実を採取後, 微量の14C-ABAと0.2μmolのABAを果実に注入し, 水さしで, 25°Cの室内においた. 注入後, 果実を毎日, 4日連続して採取し, 抽出精製後, HPLCでABAの画分を分取し, 放射能を測定した. 4日目には放射能が始めに与えた量の10%にまで減少した.
3. 1と2の結果から適切な条件として, 注入するABA量は0.2μmol, 注入する間隔は3または4日が得られた.
4.そこで, この条件を用い, 9月中旬に5本の10年生の樹を供試し, 1樹内にABA処理果と対照果をそれぞれ10果設定した. ABA処理果には0.2μmolのABA (展着剤水溶液を含む) と対照果には展着剤水溶液を注射した. 11月上旬にも6本の15年生の樹を供試し, 1樹内にそれぞれ15果設定し, 同様に注射した. 処理時期と果実の大きさの異なる上記2回の実験ともに, 注射したABAは, 有機酸には影響しなかったが, 果汁中のブドウ糖, および果糖濃度を有意に増加させた. ABA処理果と対照果の果実重はほぼ同じであったので, ABAの果肉の糖量を上昇させる作用が認められた.