抄録
栄養生長期の耐塩性が弱いベニバナおよび中程度のクリサンセマム・パルドーサムの2種のキク科花卉, さらに高耐塩性のキク科塩生植物ウラギクのNaClストレス下におけるイオン吸収, 適合溶質の蓄積および葉の浸透ポテンシャル(⩛s)を測定し, 浸透調節による生長の維持機構を水分生理学的に検討した.水耕液のNaCl濃度の上昇に伴って3種共, 葉の⩛sが低下し, 茎葉のNa+およびCl-含量が増加した.パルドーサムおよびウラギクでは根よりも茎葉のNa+含量が高く, 多量のNa+が地上部に転流した.ベニバナではK+の吸収阻害がみられた.水耕液NaCl濃度の上昇によって茎葉のプロリンおよびショ糖含量がベニバナとウラギクで有意に増加し, ウラギクではグリシンベタイン含量も増加した.ベニバナではこれらの適合溶質の蓄積による⩛sの低下が示唆されたが, パルドーサムおよびウラギクでは⩛sの低下には吸収, 蓄積したイオンの濃度上昇が大きく関与していた.すなわちNaClストレス下では, 同じキク科植物でも水分生理学的な適応様式は異なり, ベニバナは適合溶質の蓄積により, クリサンセマム・パルドーサムおよびウラギクは吸収, 蓄積したイオンの濃度上昇により組織の⩛sが低下して吸水が持続し, 細胞の圧ポテンシャルが維持される浸透調節機構により生長していると推察された.