乾燥域の水源として重要な役割を果たしていると考えられている氷河からの流出特性について, チベット高原中央部のドンケマディ氷河を例に数値実験を行った. この結果, ドンケマディ氷河は氷体温度が氷点下の寒冷氷河に属するため, 表面で生じた融解水の約2割が氷河内部で再凍結し氷河外へ流出しないことを明らかにした. また, 気候変化に対する流出の応答についての数値実験によって, 昇温に対して敏感であることが示された. 通常, 夏期の降水の一部がアルベドの高い雪として降ることにより融解を抑制しているが, 気温の上昇に伴い降雨の割合が増えるためにアルベドが下がり, 単なる顕熱の増加分以上に融解量が飛躍的に増加することによる. その一方で, 同じ気温条件下での降水の増加は, 高アルベドの降雪による融解抑制効果によって氷河の融解を抑制し, 下流における流出量への寄与を減少させることがわかった.