水文・水資源学会誌
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原著論文
熱帯降雨観測衛星データを用いたイラワジ川,メコン川流域における降水量分布の特性
松原 卓美樋口 篤志中村 健治秋元 文江
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キーワード: TRMM, 分水嶺, 降水量, 流域
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2005 年 18 巻 2 号 p. 116-131

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抄録

熱帯降雨観測衛星 (Tropoical Rainfall Measuring Mission:TRMM) に搭載されている降水レーダー (Precipitation Radar:PR) は,現在ある全球降水量マップ (例えば,Global Precipitation Climatology Project (GPCP)等) に比べ,水平分解能が細かいため流域単位での詳細な降水量分布の把握が可能である.本研究では分水嶺付近の降水量分布の特性に関して,東南アジア領域を流れるイラワジ川流域,メコン川流域に着目し,4年季節平均を施したTRMM-PR データを使い解析を行った.
その結果以下のことが明らかになった.1).下層風と地形の交わり方が降水量に与える影響を調べた結果,下層風が地形と直交する場合に降水量が最も多かった.また平均降水頻度,降水量,降水強度は,すべてのType で標高依存性を示した.2).標高・降水量の横断図解析から,降水量は地形の隆起が起こるより風上側から増加し,分水嶺の風上側で最大降水量を示す.山岳地域では, 降水量のピークは谷地形の位置と良い一致を示した.3).風上側と風下側の降水量の差を規格化した指数,IPDD (Index of Precipitation Distribution over the Divide) と分水嶺の標高との関係が得られたが,同時に季節性,地域性も認められた.しかし, この結果から,バリア効果のように降水量分布の特徴を分ける分水嶺の標高の閾値があると言える.4).本研究では,解析対象領域全体の分水嶺効果を表す一般的な関係を提示することはできなかった.しかし,本研究で算出されたIPDD は,水平分解能が粗い全球降水量マップから流域内降水量を推定する際応用可能な指標となり得ると思われる.

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© 2005 Japan Society of Hydrology and Water Resources
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