水文・水資源学会誌
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研究ノート
筑波山斜面における降水の安定同位体比時空間分布形成プロセス
矢野 伸二郎辻村 真貴田瀬 則雄植田 宏昭
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2006 年 19 巻 5 号 p. 383-391

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抄録

山地斜面における降水の安定同位体比時空間分布の形成過程を解明するため,茨城県筑波山の南側斜面4 地点において,2004年8月から12月にかけて降水を高い時間分解能で採取,分析した.解析した5つの降雨イベントにおいて,酸素安定同位体比高度効果は,-0.33~-0.10 ‰/100m(平均-0.18 ‰/100m)であった.筑波山における高度効果は,卓越風向にかかわらずみられることから,Rayleigh のモデルのみからその成因を説明することは難しいと考えられる.また観測された降水の安定同位体比から,凝結前の水蒸気のそれを推定したところ,同様に高度効果がみられた.このことから,雲内の水蒸気の安定同位体比において高度効果が生じている可能性が示唆される.降水の安定同位体高度効果は,降雨イベント開始時に顕著であり,降雨ピークに近づくに伴い効果が不明瞭になる傾向が認められ,降雨ピーク以後再び明瞭になるという時間変動を示した.この変動は,雨滴凝結時に生じる潜熱がもたらす雲内の上昇気流の強弱によって説明できると考えられる.降雨ピーク時に大量の雨滴が凝結することにより,卓越した上昇気流が雲内に生じ,鉛直方向の同位体傾度が低下することが,高度効果の時間変動要因になっていると考えられる.

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© 2006 Japan Society of Hydrology and Water Resources
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