抄録
モンスーンアジア地帯における水利用は,水田が主体である,灌漑形態が多様である,乾季と雨季が存在する,干ばつと洪水が発生するなどの特徴がある.しかし,これらの影響を総合的に評価するモデルは必ずしも得られていない.そこで,一連の論文では水田水利用を考慮した分布型水循環モデルを提案する.本稿では,その中の水利用・水管理を評価する水田水利用モデルを提案し,1999年から2003年を対象に,一連のモデルをメコン河流域に適用した結果を示した.得られた成果は以下の通りである.i)観測流量とモデルによる推定値を比較した結果,水田水利用モデルの組み込みにより,流量変動をよく再現できることが確認された.ii)水田の雨水貯留は灌漑水量や蒸発散量に影響し,水田面積率が大きい地点でその影響度合いが顕著であった.一方,灌漑を考慮しない場合,灌漑水田域において乾季の蒸発散量が少なく見積もられた.iii)本モデルは,灌漑方式,施設ごとに諸量を設定し,実取水量を水田必要水量,施設容量,取水可能量の関係から決定するため,現実に近い灌漑状況を再現でき,水田地帯における用水の反復利用にも対応できるという特徴を有している.