水文・水資源学会誌
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研究ノート
局所慣性方程式の導入による洪水氾濫計算の安定化と高速化
山崎 大田中 智大Paul D. Bates
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2015 年 28 巻 3 号 p. 124-130

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抄録

 本稿では,洪水氾濫シミュレーションを安定かつ高速に実行するために近年英国ブリストル大学で開発されたSt. Venant運動方程式の新たな近似形式である「局所慣性方程式」を紹介する.局所慣性方程式は,拡散波方程式にこれまで微小項として無視されてきた局所慣性項を加えたものである.局所慣性項を考慮することでなぜ洪水氾濫計算の安定化・高速化が実現できるのか,基礎方程式の数学的解析による理論を解説し,さらに数値シミュレーションによって実際に計算効率が改善されることを示した.数学的な解析によると,摩擦勾配を表すマニング式の流量をセミ・インプリシット形式で与えるという工夫により陽解法で時間発展を記述できること,局所慣性項を考慮した基礎方程式が双曲型偏微分方程式となりタイムステップを大きく取れること,という2つの特徴が局所慣性方程式の高い計算効率を担保していることが分かる.とりわけ平坦地における高解像度での洪水氾濫計算において,局所慣性方程式は拡散波方程式よりも有利であることが数学的な解析から導かれ,数値シミュレーションでも理論と一致する結果が得られた.

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© 2015 Japan Society of Hydrology and Water Resources
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