水文・水資源学会誌
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原著論文
貧困層を考慮した洪水常襲地帯の開発支援策の検討:
ミャンマーでのケーススタディ
川村 元輝川崎 昭如
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2018 年 31 巻 2 号 p. 83-93

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抄録

 近年,災害と貧困の関係性について注目が高まっている.災害の中でも,気候変動の影響により特に洪水の被害が将来的に増加すると考えられているが,洪水の被害を受けるアジア各国においては貧困が問題化していることも多い.そのため洪水と貧困の両方の問題を考慮した支援策が必要であるが,現状では貧困及び洪水の実態を地区レベルで考慮した施策は少ない.そこで本稿では,地区レベルにおける貧困層の特性と居住分布を考慮した洪水常襲地帯の開発支援策を策定することを目的とした.はじめに,ミャンマーのバゴーを対象とした現地調査により,洪水常襲地帯における貧困層の実態を明らかにした.その結果,もともと貧困である人が洪水常襲地帯に住むようになり,以前よりその土地に居住する人とともにコミュニティを形成していたことが分かった.そして金銭不足やコミュニティの中での生活に対する満足感から,高水準の教育に対する動機を持たずに世代を超えて貧困生活を続けるという構図が観察された.また,新しい貧困コミュニティと既存の貧困コミュニティでは異なる支援策が必要となることが示唆された.次に,堤防の設置による貧困層の被害削減効果を洪水氾濫計算により検討した.その結果,堤防を設置しても浸水を防ぐことができない貧困層の居住地区では,居住の誘導等による入居制限などの対策を提示した.最終的に,現地調査結果と氾濫解析結果を統合することで,洪水氾濫リスクと居住者の特性を考慮した6つの開発支援策をバゴーの3地区において提案した.

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© 2018 Japan Society of Hydrology and Water Resources
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