UAVリモートセンシングによる農作物観測は,作物の収量・品質の向上,環境負荷の軽減,植生・水環境研究に関わる重要な課題・技術である.本研究の目的は,UAVリモートセンシングおよび日射量に基づく,多年次,他地域に適用可能な水稲の草丈推定モデルおよび収量推定モデルの導出である.解析には,3地域(千葉県,新潟県,埼玉県),3品種(コシヒカリ,ふさおとめ,ふさこがね)を対象としたUAV観測データと衛星推定PAR,1 kmメッシュ農業気象データの全天日射量を使用した.
本研究の結論は,以下の通りである.(1)草丈推定においては,NDVIpv,GNDVIを説明変数とした草丈推定モデルの推定精度が高く,多年次,3地域に適用できた.(2)コシヒカリは出穂期から20日間,ふさおとめ・ふさこがねは出穂期から30日間の日射量が収量と最も相関があった.(3)収量推定モデルを,多年次,3地域に適用した結果,衛星推定PAR を用いた推定モデルのRMSEは46.5 g/m2,全天日射量を用いた推定モデルのRMSEは23.1 g/m2 となった.全天日射量を用いたモデルの推定精度は衛星推定PAR を用いた推定モデルよりも高かった.
近年,災害と貧困の関係性について注目が高まっている.災害の中でも,気候変動の影響により特に洪水の被害が将来的に増加すると考えられているが,洪水の被害を受けるアジア各国においては貧困が問題化していることも多い.そのため洪水と貧困の両方の問題を考慮した支援策が必要であるが,現状では貧困及び洪水の実態を地区レベルで考慮した施策は少ない.そこで本稿では,地区レベルにおける貧困層の特性と居住分布を考慮した洪水常襲地帯の開発支援策を策定することを目的とした.はじめに,ミャンマーのバゴーを対象とした現地調査により,洪水常襲地帯における貧困層の実態を明らかにした.その結果,もともと貧困である人が洪水常襲地帯に住むようになり,以前よりその土地に居住する人とともにコミュニティを形成していたことが分かった.そして金銭不足やコミュニティの中での生活に対する満足感から,高水準の教育に対する動機を持たずに世代を超えて貧困生活を続けるという構図が観察された.また,新しい貧困コミュニティと既存の貧困コミュニティでは異なる支援策が必要となることが示唆された.次に,堤防の設置による貧困層の被害削減効果を洪水氾濫計算により検討した.その結果,堤防を設置しても浸水を防ぐことができない貧困層の居住地区では,居住の誘導等による入居制限などの対策を提示した.最終的に,現地調査結果と氾濫解析結果を統合することで,洪水氾濫リスクと居住者の特性を考慮した6つの開発支援策をバゴーの3地区において提案した.
山地流域における洪水流出減衰曲線は流域固有特性と考えられてきたが,降雨規模により同じかどうかは未解明である.そこで,滋賀県の森林小流域(信楽試験地)での約14年間の観測データを基に,降雨規模の減衰過程に及ぼす影響を検討した.規模の大きな降雨の場合は降雨量の増加はほぼすべて洪水流出量の増加となり,流出寄与域が流域全体に広がるので,寄与域固定型イベントと呼ぶことにした.流出減衰曲線は折れ点なくなめらかで,流出強度(q)とその時間的変化(-dq/dt)の間に両対数グラフ上で同一の直線関係があったことから,減衰特性が流域固有であることが確認された.中間型降雨の場合もqと-dq/dtの間に同様の直線関係があったが,寄与域固定型の場合の直線と一致せず平行な直線上にプロットされた.中間型降雨では寄与域固定型と流出貯留関係は同じであるが,流出寄与域が流域全体に広がっていないことを意味しており,流出寄与域内の鉛直不飽和浸透流が減衰曲線を産み出していると推測された.中間型の一部と夕立型の降雨の場合に,降雨終了直後に急激な減衰が認められ,局所的な流出と推測されたが,流出機構の議論は今後の課題として残された.
森林土壌の流出緩和効果について,浸透能,保水容量に基づく通説を紹介した後,山腹斜面の流出機構に関する理解にともなって進展してきた評価手法を解説した.土壌の効果はその間隙分布からもたらされる保水・透水特性に基づくのであるが,具体的には,降雨を吸収して洪水流出総量を減らす効果と降雨波形を緩やかにして流出ピークを低くする効果として現れる.後者の効果は,パイプ状水みちや土層下側の風化基岩層の中の流出機構によって影響を受けるが,生物によって大間隙が形成され,土層発達にともなってパイプ状水みちが形成される長期過程を考慮すると,結果的に森林土壌の洪水流出緩和効果が発揮されたとみなすことができる.
本稿では,昨年度より発表を始めた「HRLへの貢献をたたえる」の2016年度の報告を行います.残念ながらHighest Impact Articlesの受賞対象条件を満たす論文はありませんでした. 来年度は, 高いレベルで受賞対象論文が選定されることを期待いたします.また, Most Downloaded Articleは, 昨年度に引き続き, Komori et al. (2012)でした. 来年度もトップの座を守れるのか, 新たな論文がトップの座に就くのか, 興味が絶えません.
Committee on Project Planning held the RRI Model Active Seminar at Korakuen Campus of Chuo University on 22 December 2017 in order to promote better understanding of RRI model and to spread RRI model to domestic and overseas. Prof. Sayama of Kyoto University who is a developer of RRI model, Dr. Miyamoto and Mr. Nakamura from ICHARM had lectures. We had interesting and exciting discussion at the seminar. 66 people (including 27 students) participated in this seminar.
内陸防風林は顕熱・潜熱輸送を減少させ農地の地温を上昇させることにより作物の生育を促進する効果をもつ.また,海岸林の管理では,樹木が深く根を張れるように土壌水分環境を整える必要がある.このように水土保全を目的としない森林についても水との関わりは深く,森林管理に水文学の知見を活かせる余地がある.