花崗岩からなる森林流域において,約100年前に設置された土砂止め堰堤上流部に発達した渓畔湿地の水文生物地球化学的過程を明らかにすることを目的に観測を行った.観測プロットの上流側では全層で砂質土壌が堆積しているのに対し,土砂止め堰堤に近い下流側では表層には泥質土壌が,下層には砂質土壌が堆積していた.土砂堆積様式に起因して不均質な水移動経路が形成され,透水性の高い砂質土壌を通過する地中の経路と,透水性が低い泥質土壌上を表流水として流下する経路が存在した.湿地内部は脱窒に伴うNO3-の除去が起こりうる還元的な状態が維持されており,年間降水量の多寡や水移動経路の不均一性に応じて,還元的環境の強弱が時空間的に変動することが明らかになった.これに伴い,湿地を通過する渓流水の水質も流出経路に応じた変動が見られた.土砂止め堰堤によって形成された小規模の渓畔湿地は各地に存在する.このような渓畔湿地が流域の水文生物地球化学現象に対して果たす役割を評価していくためには,湿地内部の過程を詳細に観測すると同時に,湿地の形成過程や流域内における分布と規模,消長を広域的かつ継続的に把握していく必要がある.