2018 年 31 巻 5 号 p. 350-363
我が国では戦後ダム建設が積極的に推進され,経済成長の基盤として大きな役割を果たしてきた.一方ダム建設に伴いしばしば生じた反対運動が,事業者側にとっては工期の長期化や費用の高騰,住民側にとっては地域コミュニティが傷つくなどの負の影響を及ぼしてきた.本研究では戦後のダム建設に伴う反対運動のうち41事例に関して文献調査を行い,各運動の争点・期間を整理した.既往研究によって反対運動のタイプを類型化出来ることは示されていたが,本研究における多くの反対運動の事例分析によって争点の変化がより明瞭に浮かびあがり,法制度などの社会情勢との関連も明らかになった.法制度等による対応により生活保全に係る問題はほぼ問題視されなくなっている.一方で環境や水需要予測・治水効果などが現在の主要争点であることが明確となり,水資源開発政策の更なる改善に向けた示唆を得た.また具体例として長崎県の石木ダムの事例を取り上げ,反対運動の争点が時期を追うごとにどのように変化してきたかを整理した.その結果,日本全国の反対運動における争点化の全体的な傾向と,石木ダムの事例での争点の変化は概ね一致していることがわかった.