2018 年 31 巻 5 号 p. 337-349
農民による参加型水管理(PIM)を成功に導く要因や環境条件は不明なため,農民間の水配分決定プロセスの解明はPIM導入への貢献が期待できる.環境条件で変わる農家間の配分調節によりダイナミックに変化する水配分の決定プロセス全体の把握には,エージェントベースモデル(ABM)が適用できる.本研究では複数の農家集団の水配分における協調や適応といった行動が表れる条件を理解するためにABMで水配分問題の構造化を行った.バリ島サバ川流域の灌漑地区を対象に,スバックと呼ばれる農家集団単位のエージェント間の相互作用の構造を再現し,環境条件変化による挙動変化の比較を検討した.地区の上流部は干渉を受けず他者に支配的な水利用のスバックと条件的に水利用する複数のスバックがある.ABMでエージェントの水利用条件が同じとする単一型と,差がある二集団型でシミュレーションした結果,単一型より二集団型で栽培スケジュールの種類が多く不規則的水利用を再現し水配分問題の構造化ができた.よってPIMの導入に向け,地区内に条件的な水利用があるならば,取水計画の時点で取水時期に幅を持たせた取水計画が妥当であることが示された.