水文・水資源学会誌
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31 巻, 5 号
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巻頭言
原著論文
  • ―インドネシア,バリ島のスバックを事例として―
    大倉 芙美, ブディアサ イ ワヤン, 關野 伸之, 加藤 亮
    2018 年 31 巻 5 号 p. 337-349
    発行日: 2018/09/05
    公開日: 2018/10/11
    ジャーナル フリー

     農民による参加型水管理(PIM)を成功に導く要因や環境条件は不明なため,農民間の水配分決定プロセスの解明はPIM導入への貢献が期待できる.環境条件で変わる農家間の配分調節によりダイナミックに変化する水配分の決定プロセス全体の把握には,エージェントベースモデル(ABM)が適用できる.本研究では複数の農家集団の水配分における協調や適応といった行動が表れる条件を理解するためにABMで水配分問題の構造化を行った.バリ島サバ川流域の灌漑地区を対象に,スバックと呼ばれる農家集団単位のエージェント間の相互作用の構造を再現し,環境条件変化による挙動変化の比較を検討した.地区の上流部は干渉を受けず他者に支配的な水利用のスバックと条件的に水利用する複数のスバックがある.ABMでエージェントの水利用条件が同じとする単一型と,差がある二集団型でシミュレーションした結果,単一型より二集団型で栽培スケジュールの種類が多く不規則的水利用を再現し水配分問題の構造化ができた.よってPIMの導入に向け,地区内に条件的な水利用があるならば,取水計画の時点で取水時期に幅を持たせた取水計画が妥当であることが示された.

  • 芳賀 泰平, 川崎 昭如, 池内 幸司
    2018 年 31 巻 5 号 p. 350-363
    発行日: 2018/09/05
    公開日: 2018/10/11
    ジャーナル フリー

     我が国では戦後ダム建設が積極的に推進され,経済成長の基盤として大きな役割を果たしてきた.一方ダム建設に伴いしばしば生じた反対運動が,事業者側にとっては工期の長期化や費用の高騰,住民側にとっては地域コミュニティが傷つくなどの負の影響を及ぼしてきた.本研究では戦後のダム建設に伴う反対運動のうち41事例に関して文献調査を行い,各運動の争点・期間を整理した.既往研究によって反対運動のタイプを類型化出来ることは示されていたが,本研究における多くの反対運動の事例分析によって争点の変化がより明瞭に浮かびあがり,法制度などの社会情勢との関連も明らかになった.法制度等による対応により生活保全に係る問題はほぼ問題視されなくなっている.一方で環境や水需要予測・治水効果などが現在の主要争点であることが明確となり,水資源開発政策の更なる改善に向けた示唆を得た.また具体例として長崎県の石木ダムの事例を取り上げ,反対運動の争点が時期を追うごとにどのように変化してきたかを整理した.その結果,日本全国の反対運動における争点化の全体的な傾向と,石木ダムの事例での争点の変化は概ね一致していることがわかった.

  • 江藤 菜々子, 大西 暁生
    2018 年 31 巻 5 号 p. 364-379
    発行日: 2018/09/05
    公開日: 2018/10/11
    ジャーナル フリー

     昨今,気候変動に伴う影響から,河川流量の極端な変化が全国各地で発生している.他方,少子高齢社会の到来など,我々の社会状況そのものが大きく変化している.そのため,このような河川流量及び水資源量の変化,また社会状況の移り変わりを考慮した予測・評価に関する研究が進められている.しかし,その多くは気候変動といった自然的な変化のみに着目しており,人間や社会の活動の変化,そしてそれに伴う土地利用の変化に着目した研究はさほど多くはない.土地利用の変化は,その種類ごとに雨水の地下浸透量等が異なるため,河川流量及び水資源量の変化に大きな影響を及ぼす.そのため,現状だけではなく将来の土地利用を十分に加味することで,より精度の高い評価が可能となる.先行研究は,将来の土地利用の推計について,全国に広がる流域を対象としていないことに加え,気候変動を十分に加味するための長期的な推計期間を設けた研究ではない.そのため,長期的な将来の各流域の土地利用変化を横断的に比較・評価することは難しかった.
     本研究では,将来の河川流量及び水資源量の変化の分析に寄与するため,日本109水系の全流域を対象に,2015~2100年(5年間隔)における3次メッシュ別の土地利用を推計した.また,ここでは人為的な変化を考慮するため,出生率及び死亡率の異なる4つのシナリオを設定することで,将来の人口推移の差異による土地利用の変化を推計した.この結果,日本109水系全流域の人工的土地利用は1976年時点と同程度まで減少することが分かった.また,シナリオ別に人工的土地利用面積の減少率が高い流域及び変化の少ない流域を明らかにした.

  • 白木 克繁, 孫 金勝, 各務 翔太, 永井 久美子, 横山 泰之, 小山 裕美, 根木 浩輔, 松本 恵里, 川瀬 翔太
    2018 年 31 巻 5 号 p. 380-392
    発行日: 2018/09/05
    公開日: 2018/10/11
    ジャーナル フリー

     野外利用可能な安価な流量計の精度検証を行った.検証には自作転倒升型流量計,容積式流量計,水道メーターを選択した.室内検定から,自作転倒升型流量計は2秒間で1転倒する程度までの流入流量では,市販型と同様に1 次式での検定直線を引くことが可能であることが分かった.また,転倒升の転倒時間と升貯留量の関係が検定曲線を特徴づけていることが分かった.樹幹流を対象とした野外試験では,転倒升型流量計の測定誤差は5 %以内に収まった.また,容積式流量計および水道メーターは小流量での測定限界が存在するため,滴下程度の流量を測定するためには流量変換装置が必要であること,水道メーターは流量計出口側に2 mに相当する水圧をかけることが必要であることが分かった.容積式流量計は流体内の不純物に対して誤差を生じやすく,不純物の除去に特別な配慮が必要である.総合的に判断すると,野外における安価な流量計としては自作転倒升型流量計が多くの点で優れていることが分かった.

研究ノート
  • 佐藤 理久, 青沼 ひかる, 安西 聡, 末永 夏子, 橋本 彩子, 小金 聡, 風間 聡
    2018 年 31 巻 5 号 p. 393-398
    発行日: 2018/09/05
    公開日: 2018/10/11
    ジャーナル フリー

     河川への関心の実態を探り,河川の認識を高める方策を提案することを目的とした.旅行情報誌「るるぶ」の記事分析と高校生を対象としたアンケート調査を行った.そして,川と山,海の関心の違いを探った.その結果から,3つの結論が得られた.1)観光客は自然を目当てに川と山,海の観光地を訪れていること,2)海へのアクセスが不便な地域は川への関心が高い可能性があること,3)若者の集客にはレジャーが効果的であること,が分かった.以上の結果より川の人気向上のためのプランとして,1)河川周辺の設備を充実させるプラン,2)海で行われるようなレジャーを川に取り入れるプラン,3)親水施設を設置するプランを提案した.

「森林水文」特集
原著論文
  • 若松 孝志, 池田 英史, 中屋 耕, 石井 孝
    2018 年 31 巻 5 号 p. 399-413
    発行日: 2018/09/05
    公開日: 2018/10/11
    ジャーナル フリー

     降雨強度が大きい条件での森林斜面における表面流出と土砂流出の時系列変化を観測するため,樹冠通過過程で雨滴の運動エネルギーが変化することを考慮して,樹冠上部より散水可能な手法を考案し,その有用性をヒノキ人工林を対象に評価した.散水は間欠的に約13分,32分,16分間,計3回行った.表面流出量,土砂流出量は調査プロットを用いて観測,樹冠通過雨の降雨強度,雨滴の粒径と落下速度は,プロット上部にレーザー雨滴計を設置し観測した.土層での水収支に基づき,樹冠通過雨の降雨強度(195~378mm h-1)は妥当であると判断された.林外と林内の雨滴の粒径分布と落下速度を比較した結果,樹冠を通過する過程で粒径の大きな雨滴が増大することが明らかとなった.一方,雨滴の落下速度は林外,林内ともに終端速度よりも小さく,対象とする林分の樹冠構造を反映させた落下速度を再現できていなかった.樹冠通過雨の降雨強度と浸透強度の間には正の相関関係(r =0.96)が認められ,降雨の継続に伴い,表面流出率の変化の程度は小さかった.一方,樹冠通過雨の降雨運動エネルギー,表面流出量に対する土砂流出量の割合は低下する傾向を示した.

解説
  • 大政 康史, 野口 正二, 岡田 康彦, 飯田 真一
    2018 年 31 巻 5 号 p. 414-427
    発行日: 2018/09/05
    公開日: 2018/10/11
    ジャーナル フリー

     近年,森林の蓄積量の増加に伴い,森林の木材利用が求められている.本稿では森林資源循環利用に向けて,我が国の森林・林業の過去から現在について述べた.次に,森林・林業基本計画について「森林の有する多面的機能の発揮に関する施策」に着目して解説した.さらに,我が国の森林整備状況について,森林の有する多面的機能の発揮に関する施策と東日本大震災からの復旧・復興に関する施策に着目し,1) 路網整備,2) 再造林等による適切な更新の確保,3) 国土の保全等の推進,4)東日本大震災からの海岸防災林の再生について解説するとともに関連する研究事例を紹介し,今後の研究課題を検討した.

発想のたまご
若手のページ
  • 吉田 奈津妃
    2018 年 31 巻 5 号 p. 430-
    発行日: 2018/09/05
    公開日: 2018/10/11
    ジャーナル フリー

     陸域水循環の中で,土壌―地下水を主に研究しています.本との出会いから,グローパル水文学に興味を持ち,仮想水,気象,蒸発散―植生と変遷を経て,土壌―地下水位に関する博士論文をまとめ,現在研究員をしております.分野の転向は楽ではありませんが,後になると必要な経験だったと思えることが多く,研究生活は総じて,その時々重要な情報や人との出会いに支えられてきたように思います.その知の探究を通じて感じる世界の広がりには旅のような楽しさがあります.

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