水文・水資源学会誌
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論説・評論
流域治水における農地の位置と役割
佐藤 政良
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2022 年 35 巻 1 号 p. 41-57

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抄録

 近年連続的に発生している河川大水害を受けて,2020年,国土交通省は,従来の治水方法の流域治水への転換を打ち出し,洪水抑制と水害低減に向けて全ての関係者が協働することをうたった.著者は,この歴史的転換の背景になった水害発生の条件を河川整備の視点から分析し,①流域における都市的土地利用の進展と農地排水の改良などのための中小河川整備が一級河川本川へ過剰な負担を生じさせ,河道整備だけでなくダム,遊水地等による洪水カットを必要とさせたこと,②必要な遊水地の建設が思うように進まないこと,が重要なポイントであることを指摘し,流域治水成功の当面の決定打は,③流域内の農地,特に水田およびその排水施設を整備・利用することで洪水ピークの低減を図ること,④特大洪水の危機的状況においては洪水の超過分を水田が受け入れること,以外にほぼないことを示した.これらを大きな被害を生じさせずに実現することは,技術的には可能であるとしても,農業部門がその役割を一方的に受け入れる理由はなく,社会全体が感謝の念をもって要請するほかない.一方,農地部門としてその受け入れは,条件によっては,合理的政策選択肢たり得ると思われる.

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© 2022 Japan Society of Hydrology and Water Resources
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