水文・水資源学会誌
Online ISSN : 1349-2853
Print ISSN : 0915-1389
ISSN-L : 0915-1389
総説
世界はなぜ脱炭素に向けて舵を切ったのか?
山崎 大北 祐樹木野 佳音坂内 匠野村 周平神戸 育人庄司 悟金子 凌芳村 圭
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2022 年 35 巻 3 号 p. 202-232

詳細
抄録

 国際社会はパリ協定で気温上昇を産業革命前比2 ℃未満に抑えると合意し,近年は脱炭素をキーワードとした目標が次々発表されている.脱炭素の実現は京都議定書に基づいたこれまでの気候変動対策に比べ遥かに野心的で社会構造の大転換が求められるが,企業が組織する経済団体からも反発ではなく脱炭素に協働するという発表が相次いでいる.本研究は,気候科学の知見・各国の経済政策・企業と投資家の取り組み・NGO等の活動に着目してこれまでの動向を調査し,どうして世界は脱炭素に向けて動き始めたのか?という背景を俯瞰的視点から明らかにする.文献調査の結果,気候科学の発展が国際合意に影響したことに加えて,企業に気候リスク情報の開示を求めるTCFD といった新たな気候変動対策ツールの整備が脱炭素の動きを後押していることが確認できた.また,民間企業でも気候リスク低減と経済的利益がTCFD等を通して結びつき,「気候変動対策はもはや社会貢献ではなく自己の存続のために必要」という当事者意識のパラダイムシフトが起きていることが示唆された.これらの気候変動対策をサポートする社会情勢の変化を背景として,世界は脱炭素に向けて舵を切ったと考えられる.

著者関連情報
© 2022 Japan Society of Hydrology and Water Resources
前の記事 次の記事
feedback
Top