2000 年 23 巻 5 号 p. 5_25-5_32
21日齢のWistar系雄ラットを2群に分け,それぞれに鉄欠乏食(鉄含有量 約1.85ppm)とコントロール食(鉄含有量 約358ppm)を6週間自由摂取させ,鉄欠乏性貧血が脂質代謝にどのような影響を及ぼすかについて検討を行った。
鉄欠乏食群の体重はコントロール食群に比して抑制されており,これはエサ摂取量の減少からと考えられた。鉄欠乏食摂取により,ヘモグロビン濃度及びヘマトクリット値はコントロール食群に比して有意な低値を示し,顕著な貧血が認められた。また,血清総タンパク,HDLコレステロールおよび肝臓のタンパク濃度は鉄欠乏食群で有意な減少を認めた。さらに,クエン酸合成酵素及びコハク酸脱水素酵素の活性は鉄欠乏食群では,コントロール食群と比して有意な減少を認めた。鉄欠乏食群の肝臓の病理組織学的所見は,細胞の萎縮と空洞化を認め,脂肪染色により脂肪の沈着が認められた。
以上のことより,鉄欠乏食摂取による脂肪肝の発生機序は,クエン酸回路の抑制による肝外から流入する脂肪酸のβ―酸化の低下とそれに伴うエステル化(トリグリセライド化)の促進とタンパク不足による超低比重リポタンパクの合成阻害が原因となり,トリグリセライドの肝外への搬出が阻害されている可能性が示唆された。