日本東洋医学系物理療法学会誌
Online ISSN : 2434-5644
Print ISSN : 2187-5316
会長講演
スポーツ領域の腰痛と治療法の実際
ジャーナル オープンアクセス

2018 年 43 巻 2 号 p. 11-16

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抄録


 腰痛は、鍼灸治療で最もよく扱う疾患の一つである。筑波大学で鍼治療をしたスポーツ選手の 半数が腰痛で受診している。スポーツ選手の腰痛は、どの競技でも受傷部位の上位を占める。診 断名は、発育期の脊椎分離症、青壮年期の腰椎椎間板ヘルニア、高齢期の脊柱管狭窄症など年齢 による特徴がある。しかし、最も多いのが非特異的腰痛で、筑波大学で鍼治療をした選手の約半 数を占めている。非特異的腰痛は、一般に85%であることを考えるとスポーツ選手では、脊椎分 離症、腰椎椎間板ヘルニアの占める割合が高い。
 私は、1980 年に筑波大学理療科教員養成施設の臨床専攻課程に入学したが、研究テーマは腰痛 に対する鍼灸治療の文献研究であった。「医学中央雑誌」と「Index Medicus」から1970 年代の腰 痛と鍼灸に関する文献を集めた。和文献は21 誌63 文献、外国語文献は10 誌13 文献に掲載され ていた。様々な診方や治療法があったが、腎兪、志室、大腸兪、委中に刺鍼している論文が多かった。
 1984 年より陸上競技選手の鍼治療に取り組み、1988 年からは筑波大学スポーツクリニックが 創設され、全競技の選手の鍼治療をすることになった。その主たるテーマは腰痛の鍼治療効果を、 医学、体育科学、鍼灸学の立場から検討することであった。そのため、診断名に基づく腰痛の治 療法を決めて、治療効果を検討した。
 最近私は、1)診断名による治療に加えて、2)脊柱、骨盤、股関節などの動きやスポーツ動 作を機能面から捉えた腰痛治療を行っている。また、組織を選択的に治療できる鍼治療の利点を 活かして、表層の脊柱起立筋や深層の体幹筋などを鍼先で捉えて治療している。
 しかし、腰痛治療で最も重要なことは、1)年齢、性別、アライメントなどの選手自身の要因、2) 練習の量・質・頻度などの要因、3)環境やスポーツ用具からくる要因を分析し、鍼治療ででき ることと選手自身ができることを整理することである。
 本稿では、スポーツ選手の腰痛に対する私の治療法について紹介する。

© 2018 一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
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