腰痛は、日常の臨床でよく遭遇する症状の1 つである。平成28 年に厚生労働省より発表された
国民の有訴者率で、腰痛は男性の第1 位、女性の第2 位と極めて高頻度であることが示されている。
近年、腰痛の概念は、脊椎に由来するものから、「身体」、「精神」、「社会生活」といったグロー
バルな原因により発症することが示されており、菊池らは、生物・心理・社会的疼痛症候群と位
置付けている。また、腰痛の診断には、従来、X 線やCT・MRI などの画像診断が重要視されてい
たが、最近は患者の臨床所見が最も重要であり、画像診断はその所見と一致することが必要不可
欠であると言われている。
腰痛の中で最も発症頻度が高いのは非特異的腰痛であり、国内外を問わず腰痛の約85%を占め
ると報告されている。非特異的腰痛は重篤な疾患(炎症・腫瘍・外傷等)がなく、下肢の神経症
状を呈さないものとされている。こうした非特異的腰痛の病態や治療については、整形外科の領
域でも多くの課題が山積しており、鍼灸や手技療法に対する期待が大きいと言っても過言ではな
い。
筆者らは、非特異的腰痛に対する鍼治療の効果について、整形外科脊椎専門医と連携し基礎・
臨床研究を推進した成果を、国際腰椎学会を始め専門医学会に報告してきた。その結果、鍼治療
は非特異的腰痛患者の疼痛を改善するとともに、腰痛特異的QOL(RDQ)や包括的QOL(SF-36)
が向上することが示唆された。特に包括的QOL では、身体及び精神のそれぞれ2 つの項目が上昇
することもわかった。また、JOABPEQ を用いた検討でも、概ね同様の結果が得られた。
これらのことから、伝統医療である鍼治療は非特異的腰痛に対し有効性が高く、現代医療にお
いて有用性の高い治療法と考える。さらに、包括的QOL の評価で、身体・精神の2 つの項目に関
与したことは、腰痛の新しい概念と古典の概念(心身一如)を客観的に裏付け、伝統医療の特質
を明らかにしたものと考える。