日本東洋医学系物理療法学会誌
Online ISSN : 2434-5644
Print ISSN : 2187-5316
教育講演
腰痛の新しい概念と鍼灸手技療法
- 非特異的腰痛と伝統医療の特質 -
山口 智
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2018 年 43 巻 2 号 p. 17-25

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抄録


 腰痛は、日常の臨床でよく遭遇する症状の1 つである。平成28 年に厚生労働省より発表された 国民の有訴者率で、腰痛は男性の第1 位、女性の第2 位と極めて高頻度であることが示されている。
 近年、腰痛の概念は、脊椎に由来するものから、「身体」、「精神」、「社会生活」といったグロー バルな原因により発症することが示されており、菊池らは、生物・心理・社会的疼痛症候群と位 置付けている。また、腰痛の診断には、従来、X 線やCT・MRI などの画像診断が重要視されてい たが、最近は患者の臨床所見が最も重要であり、画像診断はその所見と一致することが必要不可 欠であると言われている。
 腰痛の中で最も発症頻度が高いのは非特異的腰痛であり、国内外を問わず腰痛の約85%を占め ると報告されている。非特異的腰痛は重篤な疾患(炎症・腫瘍・外傷等)がなく、下肢の神経症 状を呈さないものとされている。こうした非特異的腰痛の病態や治療については、整形外科の領 域でも多くの課題が山積しており、鍼灸や手技療法に対する期待が大きいと言っても過言ではな い。
 筆者らは、非特異的腰痛に対する鍼治療の効果について、整形外科脊椎専門医と連携し基礎・ 臨床研究を推進した成果を、国際腰椎学会を始め専門医学会に報告してきた。その結果、鍼治療 は非特異的腰痛患者の疼痛を改善するとともに、腰痛特異的QOL(RDQ)や包括的QOL(SF-36) が向上することが示唆された。特に包括的QOL では、身体及び精神のそれぞれ2 つの項目が上昇 することもわかった。また、JOABPEQ を用いた検討でも、概ね同様の結果が得られた。
 これらのことから、伝統医療である鍼治療は非特異的腰痛に対し有効性が高く、現代医療にお いて有用性の高い治療法と考える。さらに、包括的QOL の評価で、身体・精神の2 つの項目に関 与したことは、腰痛の新しい概念と古典の概念(心身一如)を客観的に裏付け、伝統医療の特質 を明らかにしたものと考える。

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© 2018 一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
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