抄録
著者が勤務する呉竹学園東洋医学臨床研究所で受療した主に持久系スポーツの選手から得られた知見や国内外の文献を基にして、選手の受療目的や彼らによく見られる下肢のスポーツ障害に対する我々の考え方や治療方針について、またコンディショニングの一手段としての鍼灸治療についてエビデンスとともに紹介する。
選手の受療目的は短期的・中長期的に異なるが、彼らが我々に求める疼痛緩和やスポーツ障害の治療、コンディショニングの先には自身のパフォーマンス維持向上があることを忘れてはならない。スポーツ障害は競技ごとに制限された一定の動きの中で生じることがほとんどであるため、競技特性を理解することが障害の原因を探ることだけでなく治療方針の立案や刺鍼部位の選択に重要である。ランニングで生じるスポーツ障害は腰と膝が多く、トレーニング要因(走行距離とスピード)が最も影響する。手順に沿った医療面接を行うことは全ての患者に対して共通であり、疾患の鑑別を行い鍼灸治療の適応を判断する。筋骨格系の疼痛緩和に鍼灸治療は効果的であり、オーバーユースで疲労・緊張した筋肉に鍼刺激を行い、機能を回復させることで疼痛局所へのストレスを減少することも有効と考えている。
特定の疾患を有さずトレーニングやレース後の筋緊張緩和や疲労回復を目的として受療する持久系スポーツ選手は多い。鍼刺激によって刺鍼部位だけでなく遠隔部の血流が増加したり、翌日の筋肉痛が減少したりするなどの先行研究を根拠として鍼灸治療を行っているが、治療前後のVAS 値の変化からも鍼灸治療が選手のコンディショニングに一定の役割を果たしていると考えている。
選手の周りには多くの関係者が存在する。選手を取り巻く関係者の一人として、鍼灸治療という行為やエビデンスをわかりやすく説明ができるよう努める必要がある。