日本東洋医学系物理療法学会誌
Online ISSN : 2434-5644
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シンポジウム 「頸部痛・頚椎症に対する鍼・手技・運動療法の実際」
頸椎疾患に対する徒手的運動療法(Fascia リリース)
銭田 良博
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2022 年 47 巻 2 号 p. 35-42

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抄録

 運動療法は、生体にとっては非侵襲刺激で応力(内力ともいう)による圧刺激を活用した治療法である。生体内の軟組織(=軟部組織)に、応力をかけることで軟部組織の形状や線維配向性などを変化させる。それにより、疼痛閾値の変化・血流の変化・組織弾性の変化・神経伝達物質や内因性オピオイドおよびホルモン等の分泌による神経機能の賦活、などが生体反応として出現 することが考えられる。
 整形外科医は、骨関節疾患の病態を診断するスペシャリストとして手術や薬物療法を行う。それに対して、鍼灸師・理学療法士・柔道整復師等のセラピスト(治療家)は軟部組織を対象にした西洋医学または東洋医学的評価ののちに保存療法を行う。軟部組織とは、1皮膚、2神経、3筋、 4腱、5脂肪、6リンパ、7筋膜を含む Fascia(ファシア)、などが挙げられる。私は臨床において、 超音波画像診断装置(エコー)を活用している。エコーで診ながら触診を行い、体表からの応力 によるひずみ具合を確認することで、軟部組織のどの層まで応力が伝わっているかを確認しながら疼痛部位を解剖学的に同定して評価する。
 Fascia( ファシア)の定義は、国際的にも議論中であるが、「肉眼解剖学的に剖出可能な線維性 結合組織の総称」と定義されている。Fascia は、それぞれの組織に入り込み層構造になっている。 Fascia の概念なくして構築された解剖生理学的エビデンスやホメオスタシスに関連する様々な因子 を見直して東洋医学的概念も含めて再定義(臨床研究)することが必要である。Fascia リリースを 行う際、表層の Fascia に対する介入は疼痛コントロールを主目的として行い、深層の Fascia に対 しては自律神経系の調節を目的として行うことが多い。スポーツ傷害の場合は、臨床所見に合わ せて表層と深層を使い分けて行っている。Fascia リリースは痛みに対して、Fascia の配向性を考慮 して同じ深さプラス同じ層(= 三次元)で行うことがポイントである。

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© 2022 一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
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