末梢性顔面神経麻痺(以下 麻痺)を呈する主な原因は、Bell 麻痺とRamsay Hunt症候群である。麻痺の中には、患者の QOL を低下させる後遺症が生じる。後遺症の軽減は、QOLの向上に影響することから、後遺症の予防や軽減を目的とした発症後早期からのセルフケア指導の重要性が認識されつつある。
セルフケア指導は、顔面神経と顔面表情筋の特徴を理解した上で行うことが前提となる。顔面神経は、骨性の顔面神経管を通り、膝神経節部では神経束構造を欠くこと、顔面表情筋は運動神経線維のみの支配であり、筋紡錘が未発達であることが主な特徴である。
Bell 麻痺や Ramsay Hunt 症候群の病態は、膝神経節部でのヘルペス性顔面神経炎であり、顔面神経の障害の程度により3つの神経変性、脱髄病変、軸索断裂、神経断裂を生じる。
顔面神経再生の自然経過として、神経内膜が温存されている脱髄、軸索断裂線維は、もともと支配していた表情筋を再び支配する。一方で、神経内膜の断裂を伴う神経断裂線維は、もともと支配していた表情筋だけではなく、もともとは支配していなかった表情筋をも支配する。その結果、後遺症の発症に繋がる。
セルフケア指導の適応は、発症後 10 ~ 14 日時点の柳原法 10 点以下、Electroneurography40% 未満の場合と考える。
評価は、柳原法、Sunnybrook 法、日本語版 Facial Clinimetric Evaluation Scale を用いて行う。
セルフケア指導は、表情筋の筋伸張マッサージおよびストレッチ:顔面拘縮に対して、頻度を 多く、内容を正確に実施する、温熱療法:1 回 5 ~ 10 分を 1 日 3 回、上眼瞼挙筋を用いた開瞼運動:1 回 3 秒、連続 10 回を 1 セット、1 日 3 セット、視覚および触覚を用いたフィードバック療法: 病的共同運動に対して、正確に実施する。また、日常生活指導は、過度な顔面運動の禁止、顔面部の防寒や保温について行う。
セルフケア指導は、発症後早期より病期や修得状況に応じて月 1 ~ 2 回以上の頻度で、発症後12 ヶ月まで行うことにより後遺症の軽減、その結果として QOL の向上が報告されている。
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