日本東洋医学系物理療法学会誌
Online ISSN : 2434-5644
Print ISSN : 2187-5316
特別企画 「若手臨床家からの提言-こんなこと考えています-」
プレゼンティーイズムにはり治療は有用か?
皆川 陽一
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2022 年 47 巻 2 号 p. 65-68

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抄録

 現在、わが国の総人口は減少し続けている。さらにその分布をみると生産年齢人口の減少、高齢者人口の割合が増加している。そのため、経済活動や社会保障制度をはじめとした様々な分野に影響が生じることが考えられる。企業に関して言えば、希望する人材を確保するのが難しくなると同時に、企業に健康で長く定着する対策や従業員 1 人 1 人が良好な労働パフォーマンスを発 揮するための施策などを打ち出さなければならない。
 労働パフォーマンスに影響を与える因子を考えると、その要因は様々であるが、2000 年代より「休暇を取るほどでもないが、なんとなく調子が悪い、いまひとつ仕事がはかどらない」という労働者の状態(プレゼンティーイズム)が、仕事の生産性を低下させ、企業に多額の損失を与えていることが指摘され始めた。また、その原因のうち、多くの労働者が抱える様々な慢性的な症状(例: 肩こり、腰痛)による損失総額は、病気による欠勤(アブセンティーズム)や治療費をはるかに上回っていることが判明した。こうした状況を受け、企業も生産性の改善につながる対策を実践する機運が高まりつつあるが、様々な症状に対する包括的かつ実効性のある対策は示されていない。
 そこで、本稿では、プレゼンティーイズムの概要を述べるとともに、労働者が抱える様々な慢性的な症状に包括的に対応することが可能と思われる「鍼治療」に着目し、東京都鍼灸師会の協力を得て行った健康上の理由で労働遂行能力が低下していると自覚しているオフィスワーカーに対して月額合計最大 8,000 円まで「鍼治療」に要した費用に対する助成が受けられる群と受けられない群のランダム化比較試験で得られた結果について一部ご紹介する。

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© 2022 一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
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