抄録
【目的】老化による転倒、及び転倒不安の予測因子としてバランス能力が挙げられる。姿勢バランスの歪み改善に用いる手技療法がバランス能力に及ぼす影響を定量的に明らかにすることを目的とし、健康ボランテイアを対象に検討を行なった。
【方法】インフォームドコンセントの得られた健常成人 19 名を対象に5 分間の「まわひねりき操作」による手技介入を行い、介入前後に腰部柔軟性(FFD)、プレート式下肢荷重計ツイングラビコーダ GP-6000( アニマ株式会社、東京都)を用いた重心動揺値(動揺面積・速度、IPS)を測定し、主観的評価 (NRS) 及び聞き取り調査を行なった。また測定動作繰り返しによる学習効果排除のため1週間以上の間隔を開けて5分間座位安静のコントロール測定を行ない、全ての測定値を介入前からの変化率に変換後、コントロール値で除算した。
【結果】主観的評価(静的バランス評価 & 動的バランス評価、フリードマン検定、P=0.002 & P <0.001)は有意に上昇したが、客観的評価では介入直後の一過性の動揺面積増大 ( ウィルコク ソン検定、P=0.009) と開眼時の動揺中心の前後軸での有意な変化(フリードマン検定、P=0.046) のみ認められた。聞き取り調査では「足の裏の感覚が鮮明になり重心が安定しやすくなった」な ど足底感覚に関する感想を聴取できた。
【考察】主観的評価の向上、介入 15 分後の体性感覚の鋭敏化と動揺中心の後方移動は認められたが動揺面積・速度という客観的効果は確認できなかった。原因として、対象者が健常成人で介入による改善余地が小さいこと、また効果の現れ方に個人差が大きく一律の変化が認められなかったことが考えられる。
【結語】手技療法は高い効果感をもたらし、また体性感覚の鋭敏化により立位姿勢自体の安定化を促すことで、高齢者の日常生活の QOL を高め、健康寿命増進への貢献の可能性が示唆された。