日本東洋医学系物理療法学会誌
Online ISSN : 2434-5644
Print ISSN : 2187-5316
会長講演
神経疾患に対する鍼灸手技療法の新たなる展望
山口 智
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2024 年 49 巻 2 号 p. 9-13

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抄録
 神経疾患に対する鍼灸治療は、本邦の診療ガイドラインにて頭痛や脳卒中、末梢性顔面神経麻痺などが推奨されている。当科では、長年に渡り脳神経内科と連携し神経疾患の診療や研究を推進してきた。最近の実態調査では、末梢性顔面神経麻痺や一次性頭痛、脳卒中の診療依頼が多い。
 神経疾患の中で鍼灸や手技療法が対象になりやすい症状は疼痛である。鍼の鎮痛機序については、1)下行性疼痛調節機構、2)内因性疼痛抑制機構、3)脊髄後角に関与した分節性の機序、4)軸索反射、5)アデノシンによる局所鎮痛作用が示されている。
 頭痛の診療ガイドライン2021 では、片頭痛急性期・予防、緊張型頭痛、薬物使用過多による頭痛、チーム医療について鍼治療が推奨されている。当科では片頭痛や緊張型頭痛に対する鍼治療の効果とその作用機序について基礎・臨床研究を脳神経内科と共同で実施してきた。難治性の片頭痛や緊張型頭痛に対して鍼治療の有効性は高く、現代医療でその果たす役割の大きいことを強調した。また、こうした鍼治療の作用機序は局所における鎮痛効果のみならず、主に高位中枢を介し症状の改善に寄与する事が示唆された。さらに脳循環や自律神経を指標とした検討では、患者群と健常者ではその反応に差異があり、生体の正常化作用に関与することが明らかとなり、こうした作用機序が伝統医療の特質と考えている。
 本学会では、神経疾患に対する鍼通電療法と手技療法の効果や作用機序について専門医学会と連携し、より質の高い研究を推進したいと考えている。一方、こうした鍼通電療法や手技療法を担当する専門性の高い鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師の育成に精進する所存である。
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© 一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
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