2020 年 27 巻 1 号 p. 70-74
急性期の腰椎圧迫骨折に対する椎体穿孔術は,腰痛を改善し早期の離床を可能とする.しかし術直後の椎体への影響は詳しく知られていない.今回われわれは,椎体穿孔術後に新規の神経根症の出現が疑われた症例を経験したので報告する.症例は67歳,女性.腰部脊柱管狭窄症に対して近医で保存的に加療されていたが,腰痛悪化を認めたため当科紹介となった.画像上,第2,第3腰椎(L2,L3)の圧迫骨折を認め,入院治療が必要と判断した.持続硬膜外ブロックを施行後も体動時痛が残存するため,L2,L3椎体に椎体穿孔術を行い,体動時痛は改善した.しかし,新規のL3神経根症状が出現したためパルス高周波法を施行したが,数日の効果しかなく痛みが残存したまま転院となった.本症例においては持続硬膜外ブロックをしていたため症状の顕在化が遅れた可能性があるが,椎体穿孔術の影響は否定できない.急性期の腰椎圧迫骨折において症状が悪化した場合,経過中に繰り返し画像評価や身体診察を行い,骨折の進展や神経根症の悪化がないか評価すべきである.
腰椎圧迫骨折は骨粗鬆症における脆弱骨折の部位として頻度が高く,また一度受傷するとADLに大きな影響を及ぼす.急性期の治療としてセメントを用いた椎体形成術が広く行われてきたが,椎体を穿刺吸引する経皮的椎体穿孔術(percutaneous vertebral drilling:PVD)のみで痛みが改善されるという報告が散見される1,2).しかし椎体や脊椎アライメントへの影響は詳しく知られていない.今回,腰椎圧迫骨折の急性期に椎体穿孔術を施行し,その後新規の神経根症状の出現が疑われた症例を経験したので報告する.
なお,本症例においては患者から書面で公表の同意を得た.
患者は67歳,女性,身長143 cm,体重58 kg.骨粗鬆症が既往にあり,第12胸椎(Th12)および第1腰椎(L1)圧迫骨折で近医通院中であった.2017年7月初旬から腰痛および下肢痛が悪化したため腰部脊柱管狭窄症の診断でプレガバリン225 mg/日,トラマドール・アセトアミノフェン製剤(トラマドール112.5 mg/日・アセトアミノフェン975 mg/日),デュロキセチン20 mg/日とリマプロストアルファデクス15 µg/日の内服や仙骨硬膜外ブロックで経過観察していたが,症状は改善せず7月26日に当科紹介となった.初診時持参のMRIで右L3,L4神経根レベルでの狭窄を認めた(図1a,b).明らかな筋力低下や腱反射の異常は認めなかったが,右下腿内側部痛を認めたため腰部脊柱管狭窄症による右L4神経根症と診断した.より効果の見込める腰部硬膜外ブロックを施行予定とし,リマプロストアルファデクス休薬後の再受診とした.当科受診後に撮影した腰椎単純X線撮影で過去にみられなかったL3椎体の新たな骨折を認め(図1c),5日後の再診時に歩行困難なほどの腰背部痛を認めた(図2a)ため同日に緊急入院となった.
入院までの腰椎の画像上の変化
a:初診時持参MRI(T2強調画像:矢状断).Th12,L1椎体に陳旧性圧迫骨折と脊柱管の狭窄を認めたが,その他の新鮮骨折は認めなかった.
b:初診時持参MRI(T2強調画像:水平断).右L4神経根レベルでの狭窄を認めた.
c:入院時側面Xp.新規のL3圧迫骨折を認めた.
d:入院時MRI(T2 STIR画像).L2椎体も早期の圧迫骨折と診断した.
入院時および経皮的椎体穿孔術(PVD)後の症状の変化
a:入院時.右L4神経根領域の痛みやしびれと腰椎圧迫骨折による腰背部痛の痛みを認めた.
b:PVD後.右L4神経根領域の痛みや腰背部痛の痛みの訴えは少なくなり,新たに右L3神経根領域の痛みを認めた.
c:PVD.全身麻酔導入後に腹臥位とし,X線透視下に椎弓根経由でボーンニードルを用いて椎体を穿刺した.L3椎体からは左側から2 ml血液の吸引ができたが,右側は吸引が不可能であった.同様にL2椎体両側からそれぞれ5 ml吸引可能であった.
入院後経過:痛みにより体動困難なため尿道カテーテル留置を行い,同時にダーメンコルセットも作成した.除痛の効果をみるためL4/5レベルから1%メピバカイン5 mlで硬膜外ブロックを施行すると安静時痛は軽度改善がみられた.翌日から硬膜外カテーテルを留置し同薬剤を2 ml/hrで持続硬膜外投与を行ったところ,安静時痛は改善がみられたが体動時痛には大きな改善がみられなかった(図3).
入院後経過
NRS:numerical rating scale,PRF:pulsed radiofrequency
体動時痛の改善を目的として,入院から7日後にL2,L3椎体に対してPVDを施行した(図2c).
全身麻酔下に患者を腹臥位とし,透視下でボーンニードル(14 G,ボーンニードルOSSIRIS二重針,八光メディカル,長野)を用いL2,L3椎体に経椎弓根的に両側に施行した.術翌日には痛みの訴えはあるがコルセット着用で介助下に車椅子移乗可能となった.さらに離床を促すため,0.125%レボブピバカインの持続硬膜外投与に変更しても体動時痛の悪化は認めず,むしろ改善傾向であった.しかし今まで訴えられていなかった右大腿外側部痛を新規に認めた(図2b).術後撮影した単純X線やCTでは椎体圧潰の進行は認められなかった.明らかな筋力低下や感覚鈍麻はみられなかったが,痛みを訴える部位のデルマトームから右L3神経根症が疑わしいと判断し,神経根パルス高周波法(pulsed radiofrequency:PRF)を42℃180秒間施行した.痛みの改善がみられたが数日後に症状の再燃を訴えた.手術適応を含め整形外科医と本人を交え相談を行い,まずリハビリテーションによる筋力回復を優先することとなった.入院から10日後に硬膜外カテーテルを抜去し,受け入れ先の環境が整った18日後に転院となった.
約3カ月後に当院を受診した時点では間欠性跛行や右大腿外側部痛が残存していた.しかし杖歩行で日常生活が送れており本人が手術には拒否的であったため,通院リハビリテーションを継続している.
骨粗鬆症患者における脆弱性骨折の好発部位である腰椎椎体は,他の好発部位に比べ体動困難による廃用症候群の危険があるため,可能なかぎり早期に除痛を図り離床を目指すことがADLの維持には重要となる3).
新鮮椎体骨折の診断にはX線撮影を最初に行うが,急性期には変形が軽度なことが多く見逃されることもある.その一方でMRIは骨折初期から正確に診断が可能であることが知られており4),本症例でもX線で異常がみられていなかったL2椎体にも早期の骨折が発見できた(図1d).
圧迫骨折に対する治療はコルセットによる外固定を行い,安静にすることで骨折部の安定を図り,そのうえで痛み治療を考慮することが基本となる.急性期の痛みの原因として,椎体由来のものと脊椎関節由来のものが考えられている.とくに体動時痛は脊椎関節由来であることが多く,診断的治療のために椎間関節ブロックや後枝内側枝ブロックを施行される3).本症例では体動時痛の治療とともに腰部脊柱管狭窄症による下肢痛も同時に治療が図れる硬膜外ブロックを選択し,安静時痛や下肢痛には一定の効果がみられた.体動時痛の改善が不十分であった原因として,椎間板由来のものが考えられる.圧迫骨折の出現時期と痛みの出現時期が一致しており,また前屈位で痛みは増強しなかったため椎間板由来の可能性は低いと考えた.
本症例で行ったPVDは椎体形成術と異なり,セメント漏出のリスクもなく受傷早期から比較的安全に施行可能である一方で,有効率は69~92%と高い5,6).椎体の不安定性が強いとPVDの効果が弱い可能性があると考えられているが,腰椎X線による受傷前後の楔状角の変化から椎体不安定性は少ないと考えた.鎮痛機序としては一定の見解は得られていないが,骨髄内圧の減圧を行うことで骨膜や骨皮質での神経圧迫を取り除くことにより除痛を図り,さらに血流改善を促し骨の不安定を改善すると考えられている7).
今回,PVD後に出現したL3神経根症の診断として,筋力低下や感覚鈍麻などは持続硬膜外カテーテルを留置していたこともあり正確な所見として得られなかった.しかし痛みの出現部位から右L3神経根症を疑い,PRF施行時にも再現痛や放散痛が得られたことから,診断は妥当であったと考えた.L3神経根症が出現した理由として,まず硬膜外カテーテルの長期留置が考えられる.留置1週間程度でカテーテル周囲から癒着の徴候が徐々にみられることが知られている8)が,本症例では神経根症が急激に出現したため可能性が低いと考えた.他の原因として治療経過中に椎体の圧潰の進行とともに症状が出現した可能性を疑ったが,術後のX線やCTでは椎体圧潰の進行は認められず,また,椎体穿孔術により椎体の圧潰が進行したという報告は見当たらなかった.術前に腰痛の訴えが強く,身体所見が十分にとれなかった可能性や,高濃度の局所麻酔薬による持続硬膜外ブロックにより症状がマスクされていた可能性も考えられるが,経過からはPVDの影響も否定できず,画像評価を繰り返し行い椎体や脊柱管内の経時的変化を調べることで,症状の出現を早期に発見できたかもしれない.しかしADLの観点からは圧迫骨折による腰痛に早期に介入すべきであり,結果として廃用症候群は最低限に抑えられたと考えられる.
急性期の腰椎圧迫骨折に対して椎体穿孔術を行い早期の離床をすることができた症例を経験した.強い腰部の体動時痛を訴え,薬物抵抗性の場合は,神経根症状を併発していても積極的に施行することで早期離床につながり,ADLの低下を防ぐことが可能と考えられた.
この論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第52回大会(2018年7月,東京)にて発表を行った.