日本ペインクリニック学会誌
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27 巻, 1 号
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総説
  • 友田 明美
    原稿種別: 総説
    2020 年27 巻1 号 p. 1-7
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/03/04
    [早期公開] 公開日: 2019/12/20
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    近年,児童虐待と「傷つく脳」との関連が脳画像研究からわかってきた.例えば,暴言虐待による「聴覚野の肥大」,性的虐待や両親のDV目撃による「視覚野の萎縮」,厳格な体罰による「前頭前野の萎縮」などである.虐待を受けて育ち,養育者との間に愛着がうまく形成できなかった愛着障害の子どもは,報酬の感受性にかかわる脳の「腹側線条体」の働きが弱いことも突き止められた.こうした脳の傷は「後遺症」となり,将来にわたって子どもに影響を与える.トラウマ体験からくるPTSD,記憶が欠落する解離など,その影響は計り知れない.しかし,子どもの脳は発達途上であり,可塑性という柔らかさをもっている.そのためには,専門家によるトラウマ治療や愛着の再形成を,慎重に時間をかけて行っていく必要がある.一連のエビデンスについて社会全体の理解が深まることで,大人が責任をもって子どもと接することができ,子どもたちの未来に光を当てる社会を築くことに少しでもつながればと願っている.

  • 石黒 直樹, 原田 紀子, 江端 望, 藤井 幸一
    原稿種別: 総説
    2020 年27 巻1 号 p. 8-14
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/03/04
    [早期公開] 公開日: 2020/01/21
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    変形性関節症の痛みについて,患者には「関節軟骨が剥がれて,むき出しになった骨が擦れて痛い」「骨棘がぶつかるから痛い」と説明されることが多いと思われるが,実際はそれ以上に複雑である.もちろん,骨や軟骨,関節周囲の支持組織の構造変化は痛みの原因になり得るが,変形性関節症の痛みには,滑膜炎や軟骨・半月板内側などの無神経野への神経伸長,中枢性/末梢性感作や下行性疼痛抑制系の異常など,さまざまな要素が関連している.これらの要素は,密接にかかわりながらもそれぞれ独自の機能を有するため,独自に異常をきたし得る.つまり,変形性関節症の痛みは,非常に複雑かつ病期や患者個人によって痛みの主因がさまざまであるため,異常をきたしている要素に応じた治療が求められる.超高齢社会を迎えるにあたり,われわれ医療従事者が変形性関節症患者の診療を行う機会はさらに増えていくと思われる.変形性関節症の痛みに対するテーラーメイドの治療を実現するには,まず変形性関節症で起きている変化や痛みの原因について,深く理解することが重要である.

  • 長谷川 麻衣子
    原稿種別: 総説
    2020 年27 巻1 号 p. 15-20
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/03/04
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    近年,高齢化に伴う慢性痛患者の増加と鎮痛薬の慢性使用が問題となっている.非ステロイド性消炎鎮痛薬は,消化管粘膜障害や腎障害のリスクがある一方で,長期使用によりがん生存率を上昇させることが報告されている.また米国ではオピオイドの不適切使用により依存症が蔓延し,死亡者数が急増している.このいわゆるオピオイドクライシスによる社会・経済的損失は甚大であり,本邦においても長期予後への影響が十分検証されないまま,オピオイド製剤の適応が拡大している.術前からのオピオイド慢性使用は術後感染や再手術の危険因子であり長期的にはがんの術後再発との関連が指摘されている.オピオイドの免疫抑制作用は投与量と相関する一方でオピオイドの種類によって異なり,オピオイド受容体を介した作用のみだけでなくパターン認識受容体を介した機序が明らかにされつつある.オピオイドが異物や病原体の認識を修飾している可能性が示唆されている.

原著
  • 星山 有宏, 金井 昭文, 林 経人, 河村 直樹, 高橋 佑一朗, 岡本 浩嗣
    原稿種別: 原著
    2020 年27 巻1 号 p. 21-26
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/03/04
    [早期公開] 公開日: 2019/12/20
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    【背景】帯状疱疹関連痛(ZAP)は高齢者に多く,鎮痛薬投与が長引くが,認知機能の詳細は不明である.【方法】Mini-Mental State Examination(MMSE)と長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を測定して診療したZAP高齢患者30人を後方視的に評価した.【結果】結果は中央値(最小値,最大値)で示す.初診時,79(65–89)歳,MMSE:25(17–30),HDS-R:25(11–30)であった.1カ月後,NRS,MMSE,HDS-Rは有意に改善した(すべてp<0.001).HDS-Rと罹病期間に正の相関(p=0.022,rs=0.418),MMSEとオピオイド総投与量に負の相関(p=0.018,rs=0.470),MMSEまたはHDS-Rとプレガバリン総投与量に正の相関(MMSE:p=0.021,rs=0.458,HDS-R:p<0.001,rs=0.652)があり,神経ブロックとは有意相関がなかった.【結語】ZAP高齢患者の認知機能は急性期に悪く,次第に改善する.オピオイド治療は認知機能を悪化,プレガバリンは改善の方向へ導く可能性が示唆された.

  • 阿瀬井 宏佑, 佐藤 仁昭, 本山 泰士, 上嶋 江利, 高雄 由美子, 溝渕 知司
    原稿種別: 原著
    2020 年27 巻1 号 p. 27-31
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/03/04
    [早期公開] 公開日: 2020/01/21
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    オピオイド鎮痛薬は非がん性痛患者の痛みを和らげるが,オピオイド誘発性便秘(opioid induced constipation:OIC)が生じる.OICに対しては緩下剤で治療を行うが,治療に難渋することがある.非がん性痛患者では,がん性痛患者に比べ,オピオイドやOICに対する治療薬の投与期間が長くなることが考えられるため,副作用や経済的負担を考慮する必要がある.今回,これまでの緩下剤治療では排便コントロールが困難な非がん性痛患者で,ナルデメジンを新しく使用開始したことによる効果,副作用および費用について後ろ向き観察研究を行った.症例数は36症例(男性17症例,女性19症例)であった.便秘が改善したのは33症例(92%),改善なしが3症例(8%)であり,26症例(72%)は併用していた他の緩下剤を減量あるいは中止できた.17%で一過性下痢,8%で軟便がみられたが重篤な副作用は認めなかった.患者が負担する緩下剤内服にかかる費用については,ナルデメジン開始前は1カ月あたり平均1,148円であったが,開始後は同6,102円と5.3倍に増加した.

  • 寺山 和利, 渡部 多真紀, 渡辺 茂和, 三浦 邦久, 土屋 雅勇
    原稿種別: 原著
    2020 年27 巻1 号 p. 32-38
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/03/04
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    【目的】痛みの評価はVASなど主観的方法が汎用されている.客観的評価ツールであるPainVision(PV)が痛みの測定に有用であるか,外用NSAIDsの薬効をPVとVASで評価した.【方法】被検者は成人ボランティア33名とした.試験薬剤はインドメタシン・ケトプロフェン・ジクロフェナク・フェルビナクを主成分とする外用NSAIDs 19剤を用いた.鎮痛効果はPVとVASを用いて検討した.【結果】PVとVASはr=0.681(p<0.01)と相関を示した.クリーム剤のミカメタン,テイコク,ユートクはインテバンに比べ有意差をもって強い鎮痛効果を示した(p<0.05).ゲル剤のエパテック,ナボールはイドメシンに比べ有意差をもって強い鎮痛効果を示した(p<0.05).【結論】PVが痛みの評価に有用なツールである可能性を示した.外用NSAIDsは主成分や剤型により鎮痛効果が異なるため,医師や薬剤師が薬剤を選択する際には,鎮痛強度の違いを考慮すべきである.

症例
  • 大槻 明広, 足立 雄基, 湊 弘之, 遠藤 涼, 青木 亜紀, 稲垣 喜三
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻1 号 p. 39-42
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/03/04
    [早期公開] 公開日: 2019/12/20
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    心臓ペースメーカ(PM)移植後では,脊髄刺激療法(SCS)による誤作動が懸念される.今回,PM移植後の患者で安静時疼痛を伴う閉塞性動脈硬化症に対して,安全性に留意してSCSを実施し,疼痛緩和が得られた症例を経験したので報告する.症例は70歳代の女性で,下肢動脈狭窄に対し7回の血行再建術を施行するも痛みが続くためSCSを希望された.初診時の両下肢痛は安静時NRSで7/10であった.PM移植後であり,SCSによる誤作動がないことを確認する必要があった.PMをVVIモードでオールペーシングとし,刺激電極の位置,刺激強度,刺激周波数,PMの感度を調整しながら,機器間の相互作用がないことを確認した後,刺激を開始した.下肢痛は徐々に改善したが,PMの誤作動は確認されなかった.電極留置後7日目に刺激装置を植込み,11日目に自宅退院とした.退院時の下肢痛は,NRSで4/10まで低下した.PMとSCSの機器相互作用の要因として,脊髄刺激の位置,強度,周波数やPMの感度,モノポーラーなどがあげられる.パラメーターを調整しながら注意深く刺激電極を留置することで,PM留置後でもSCSが実施可能であった.

  • 杉本 真由, 西村 大輔, 中川 雅之, 林 摩耶, 上島 賢哉, 安部 洋一郎
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻1 号 p. 43-47
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/03/04
    [早期公開] 公開日: 2019/12/20
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    腰痛,下肢痛に対する神経ブロックはさまざまあるが,大腰筋筋溝ブロックは,重篤な合併症として後腹膜血腫や腎・内臓損傷などがある.今回,大腰筋筋溝ブロック施行患者における大腰筋の解剖学的位置を調査した.研究方法は,後ろ向き観察研究で,当院で大腰筋筋溝ブロック施行した患者を対象に主要評価項目として第4腰椎(L4)レベルで,①棘突起正中から外側40 mmの体表から大腰筋膜の垂直距離(深さ),②棘突起正中から大腰筋外縁までの距離を核磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging:MRI)を用いて測定した.副次評価項目として合併症の発生率,腎臓下縁の腰椎の高さ,大腰筋の解剖学的位置と患者背景との関連性を調査した.結果として,対象患者は100名で主要評価項目①は63 mm,②は男性63 mm,女性53 mmであった.合併症はなく,腎臓下縁は左右ともにL3下縁より頭側が多かった.また,体重が大きいほど大腰筋は深く,女性よりも男性で大腰筋が正中より外側に位置する可能性が示唆された.

  • 南 絵里子, 石川 慎一, 小橋 真司, 森本 明浩, 中村 仁, 林 文昭
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻1 号 p. 48-51
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/03/04
    [早期公開] 公開日: 2019/12/20
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    通常の硬膜外自家血パッチ(epidural blood patch:EBP)では効果が得られなかった難治性硬膜穿刺後頭痛に対して,Raczカテーテルと硬膜外針を併用したEBPが有用であったので報告する.症例は,脊髄くも膜下麻酔下に精索静脈瘤手術を受けた16歳の男性である.術後20日になっても,起立性頭痛と嘔気が持続するため当院に紹介された.初回EBPではX線透視下に18 G硬膜外針を用いて,第4/5腰椎レベルより自家血20 mlを投与したが,症状の改善は得られなかった.腰椎MRIでは髄液漏出部位は不明であったが,初回EBP後のCTで腹側硬膜外腔への血液拡散が不十分であったため,硬膜腹側や側方からの髄液漏出の可能性を考慮し再EBPを行った.硬膜外針による背側硬膜外腔穿刺に加えて,仙骨裂孔より挿入したRaczカテーテルの先端を第4/5腰椎レベルの腹側硬膜外腔に留置して,硬膜外針とカテーテルから自家血各10 mlを投与した.再EBP後のCTでは注入した自家血が硬膜外腔の全周にわたり拡散しており,起立性頭痛はすみやかに改善した.Raczカテーテルを併用したEBPは髄液漏出部位に効率的に血液を投与できるため,難治性硬膜穿刺後頭痛に対して有用と考えられた.

  • 又吉 宏昭, 三宅 奈苗, 福田 志朗
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻1 号 p. 52-55
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/03/04
    [早期公開] 公開日: 2019/12/20
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    多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)による症候性の三叉神経痛(trigeminal neuralgia:TN)に対して治療を行った症例を経験した.症例は48歳,女性.約20年前から左上肢の筋力低下や複視などを自覚するようになり,神経内科でMSと診断された.これまでにステロイドやインターフェロン治療を行い,寛解・再発を繰り返しながら加療されていた.2年前から右舌裏部を中心とした痛みを自覚しプレガバリンが使用されたが,少量でもふらつきが強く中止され当科に紹介された.カルバマゼピン,レベチラセタム,トラマドールを使用したが効果はなかった.右下顎神経高周波熱凝固の施行後に痛みは消失し,会話・食事・歯磨きなどが行えるようになった.MSによる症候性TNに対する三叉神経ブロックは,典型的TNよりも有効性は低く,除痛期間も短いといわれているが,薬物治療の効果が乏しい場合には試みる価値があると思われる.

  • 諸橋 徹, 塩川 浩輝, 前田 愛子, 八木 知佐子, 外 須美夫
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻1 号 p. 56-60
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/03/04
    [早期公開] 公開日: 2019/12/20
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    難治性の遷延性術後痛(persistent postoperative pain:PPP)に対する治療として神経根パルス高周波法(pulsed radiofrequency:PRF)が有効であった2症例を経験したので報告する.症例1は68歳,男性.5年前に前立腺摘出術を施行後,鼠径部の突っ張るような痛みが続いた.薬物療法や内臓神経ブロックで痛みは軽減せず,体表の末梢神経ブロックの効果は一過性であった.胸部,腰部神経根のPRFを2回施行後,数カ月間にわたって痛みが軽減し,趣味であるゴルフを再開することが可能となった.症例2は52歳,女性.3年前に膵胆管合流異常に対し,空腸胆管縫合術を施行後,慢性的な腹痛があった.肋間神経ブロックや薬物療法では若干の痛みの軽減があるのみであった.胸部神経根PRFを複数回施行したところ,自覚症状と日常生活動作(activities of daily living:ADL)が改善した.これら2症例の経験から,PPPに対するPRFが疼痛軽減とADLの改善に有効であることが示唆された.

  • 米本 紀子, 米本 重夫, 小林 俊司, 神移 佳, 井戸 和己, 森本 正昭
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻1 号 p. 61-64
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/03/04
    [早期公開] 公開日: 2020/01/21
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    身体表現性障害とは「検査所見に異常が無く,医師がその症状には身体的根拠が無いとするにもかかわらず,身体症状を反復して訴え,絶えず医学的検査を要求する」と定義される.身体表現性障害として紹介された8人が,当院ペインクリニックでの介入により,どのような経過をたどったか報告する.症例A~Cは未治療であった身体的根拠があり,その器質的原因に対する治療によって痛みが軽減し,生活機能が改善した.症例D~Fは生活機能が保たれており「慢性痛の治療目的は生活の質を改善していくことである」という説明を理解し,身体症状を反復して訴え完治を期待する言動をやめた.症例Gは8カ月後に解離性障害と診断され精神科入院となった.症例Hは,生活機能は保たれていたが慢性痛の説明に納得できず,1年後も身体表現性障害の言動を継続していた.以上より,身体表現性障害と診断されても,ペインクリニックの介入が有効なケースもあると考える.

  • 高橋 秀則
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻1 号 p. 65-69
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/03/04
    [早期公開] 公開日: 2020/01/21
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    関節リウマチなどで生じる関節痛に対する西洋医学的治療は,薬物療法や理学療法などを中心に行われることが多いが難治の症例もある.一方,東洋医学的療法の一つである経穴刺激療法(遠絡療法)は,難治性疼痛に対して有力であるとの報告があるものの,有効性が確立されていない.今回,関節リウマチと診断されていた症例で,外傷を契機に発症した重度肘関節痛に対して本法が奏効したので報告する.症例は60歳,女性.左肘を捻り左肘痛が発症し,近医で肘内側靱帯断裂と診断され鎮痛薬投薬,理学療法を行うも改善せず痛みのために関節運動が困難になった.翌年には右肘関節にも痛みが生じ,次第に関節運動が困難となり,発症2年後われわれの施設に紹介受診となった.初診時両肘の関節運動はまったく不可能で,運動時痛のみならず安静時痛も激しく筋萎縮や骨萎縮も生じていた.薬物療法とともに遠絡療法が開始された.治療は1~2週間に1回行われ,2カ月後には安静時痛は消失,左肘関節は全可動域,右肘関節は0~90°までに可動域が改善した.遠絡療法は鍼を刺さない東洋医学的手技として,重度の関節痛に有力な除痛手段と思われた.

  • 河合 茂明, 山崎 広之, 藤田 麻耶, 舟尾 友晴, 矢部 充英, 西川 精宣
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻1 号 p. 70-74
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/03/04
    [早期公開] 公開日: 2020/01/21
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    急性期の腰椎圧迫骨折に対する椎体穿孔術は,腰痛を改善し早期の離床を可能とする.しかし術直後の椎体への影響は詳しく知られていない.今回われわれは,椎体穿孔術後に新規の神経根症の出現が疑われた症例を経験したので報告する.症例は67歳,女性.腰部脊柱管狭窄症に対して近医で保存的に加療されていたが,腰痛悪化を認めたため当科紹介となった.画像上,第2,第3腰椎(L2,L3)の圧迫骨折を認め,入院治療が必要と判断した.持続硬膜外ブロックを施行後も体動時痛が残存するため,L2,L3椎体に椎体穿孔術を行い,体動時痛は改善した.しかし,新規のL3神経根症状が出現したためパルス高周波法を施行したが,数日の効果しかなく痛みが残存したまま転院となった.本症例においては持続硬膜外ブロックをしていたため症状の顕在化が遅れた可能性があるが,椎体穿孔術の影響は否定できない.急性期の腰椎圧迫骨折において症状が悪化した場合,経過中に繰り返し画像評価や身体診察を行い,骨折の進展や神経根症の悪化がないか評価すべきである.

  • 前田 愛子, 塩川 浩輝, 外 須美夫
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻1 号 p. 75-78
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/03/04
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    腰部脊柱管狭窄症(LCS)は,おもに加齢性変化による脊柱管・椎間孔の狭小化から腰下肢痛などを呈す疾患である.安静時には症状が軽快することが多く脊髄刺激療法(SCS)の試験刺激中の効果判定が難しい.今回,LCS患者4例(57~85歳.女性1例,男性3例)に対してSCS試験刺激前後にTimed Up & Go test(TUG),10 m歩行時間,歩行距離測定の運動機能評価を行い,SCS試験刺激の有効性を検討した.SCS試験刺激後にTUG,10 m歩行時間の短縮率はそれぞれ14~59%,16~53%,歩行距離テストでは2.0~3.7倍に延長した.痛みの強さは1例で50%以上,2例で25%以上軽減し,1例で変化がなかった.客観的指標である運動機能はSCS試験刺激後に全例で改善したが,主観的指標である痛み評価は変化のない症例もあった.運動機能の改善はSCSによる疼痛抑制効果と脊柱管の血流改善効果双方が関与すると考えられた.運動機能評価を用いたSCS試験刺激の効果判定は,LCS患者本人と家族や医療者が共有できる客観的評価法として有用である.

  • 森 玲央那, 成田 紗里奈, 田村 高廣, 内山 沙恵, 横田 修一
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻1 号 p. 79-82
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/03/04
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    【背景】近年,上顎・下顎神経ブロックの超音波ガイド下手技が注目されている.【経過】症例は21歳の女性で顔面の歪みに観血的上顎・下顎骨形成術が実施された.プロポフォール,フェンタニル,レミフェンタニルによる全静脈麻酔による麻酔導入後,超音波ガイド下で0.375%ロピバカインを用いて左右の上顎・下顎神経ブロックを実施し,閉創時に静注用アセトアミノフェン1,000 mgとIV-PCA(intravenous patient-controlled analgesia:フェンタニル20 µgボーラス/回,ロックアウトタイム10分,ベースの持続静注20 µg/H)を使用した.術中は血圧・脈拍の有意な変動はなく,術後はPCAの持続静注のみで32時間痛みを訴えなかった.【考察・結語】超音波によって側頭下窩の解剖を確認でき(カラードップラーも併用可能),翼状突起外側板を介して局所麻酔薬を神経に間接的に浸潤させるためランドマーク法より正確,安全に手技を行える可能性が報告されており,本症例のような上・下顎の手術の鎮痛法にもよい適応と考えた.今後も本法を用いたより多くの症例検討を要するが,今回の経験から上顎・下顎神経ブロックでの超音波装置の使用の有用性が示唆された.

  • 信太 賢治, 武冨 麻恵, 小林 玲音, 福田 悟, 増田 豊, 大嶽 浩司
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻1 号 p. 83-86
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/03/04
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    再発椎間板ヘルニアに対する治療ガイドラインは存在せず,患者個々の症状に応じた経験的な治療が優先されている.今回,再発した巨大なヘルニアに対してDisc-FX®が著効した症例を経験した.症例は27歳,女性.X−7年にL3/4,L4/5ヘルニアに対して,髄核摘出術が施行された.X−1年,腰痛と右下肢痛にて整形外科を受診した.MRIにてL4/5に脊柱管内の約70%を占める巨大なヘルニアの再発と椎間板変性を認めた.筋力低下や馬尾症状がないため,当科に紹介受診となった.初診時,腰痛とL5神経根領域の強い痛みを訴え,NRSは10で,SLRTは30度であった.薬物療法や神経根ブロックなどでNRSは6~7に低下したが,同一姿勢保持や歩行が困難で,疼痛性側弯を認めていた.そのため,椎間板内治療(Disc-FX®)を考慮した.Disc-FX®を用いて髄核摘出と髄核焼灼,線維輪縫縮を施行した.2日目に下肢痛は消失し,SLRTは80度に改善した.腰痛も徐々に改善しNRS 1~3に低下した.再発した巨大なヘルニアでも,Disc-FX®は試みるべき選択肢の一つと考えられた.

  • 渡部 達範, 花房 友海, 内藤 夏子, 清水 大喜, 馬場 洋
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻1 号 p. 87-90
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/03/04
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    尺骨神経が関与する痛みやしびれは環指や小指に現れることが多い.今回,肘痛のみを訴える尺骨神経炎の症例を経験したので報告する.症例は79歳男性.9年前に左肘痛が出現した.近医でプレガバリンやトラマドール・アセトアミノフェン配合錠による治療が行われていたが症状の改善を認めず,痛みによる中途覚醒の頻度が増加したため当科を受診した.左肘周囲にビリビリとした数値評価スケール8/10の安静時痛を訴え,肘内側に圧痛点を認めた.左手指の症状,肘関節や手指の運動制限,肘の単純レントゲン写真の異常所見は認められなかった.また,聴取した範囲の中では心理社会的問題は認めなかった.症状からは否定的であったが,圧痛点が尺骨神経の通る肘部管に一致していることから,左尺骨神経が関与している痛みの可能性を考えた.圧痛点より近位で超音波ガイド下に左尺骨神経ブロックを施行したところ肘痛は数分で消失し,左尺骨神経が関与した痛みであると診断した.精査目的に尺骨神経の伝導速度検査と感覚検査,磁気共鳴画像法(MRI)の撮像を行った.伝導速度検査・感覚検査では異常は認めなかったが,MRIでは尺骨神経の浮腫状変化を認め,尺骨神経炎と診断された.デュロキセチンの投与と神経ブロックを併用し症状は改善した.

  • 作田 由香, 河野 武章, 山本 雅子, 前島 亨一郎, 戸田 雄一郎, 中塚 秀輝
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻1 号 p. 91-94
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/03/04
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    胸部硬膜外麻酔合併症として肋間血腫は広く認知されていない.われわれは硬膜外穿刺からカテーテルの挿入に至る過程で,肋間血管が損傷され肋間血腫に進展したと考えられる1例を経験した.症例は50歳の女性で,左肺腫瘍に対して胸腔鏡補助下左肺上葉部分切除手術が予定され,硬膜外麻酔併用全身麻酔が計画された.硬膜外穿刺は,第7/8胸椎間より傍正中法で施行した.穿刺後カテーテルを挿入したところ血液の逆流を認めたためカテーテルを抜去した.椎間を変えて再度の穿刺を試み,カテーテルを留置した.術中,胸腔鏡下に肋間血腫が判明し,切開吸引され止血処置後に手術を終了した.術後は,神経学的異常を認めず身体的影響もなく退院した.肋間血腫の発生頻度はまれだが重篤な転帰に至ることもあり,傍正中法で胸部硬膜外穿刺を行う際には,適正な穿刺方向を常に意識する必要があると考えられた.

  • 吉村 季恵, 渡邉 恵介, 藤原 亜紀, 木本 勝大, 川口 昌彦
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻1 号 p. 95-98
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/03/04
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    X線透視下脊柱起立筋ブロックが著効した慢性腰痛を1症例経験したので報告する.症例は58歳,男性.主訴は腰痛.建設作業中の転落によりL3腰椎圧迫骨折.保存的治療では改善せず神経ブロック治療目的で受傷6カ月後に当科紹介となった.初診時,腰部全体の局在不明な鈍痛と歩行や立位の保持で誘発される疼痛があった.神経根ブロック,硬膜外ブロック,腰部交感神経節ブロックを施行するも無効であった.L3横突起からの脊柱起立筋ブロックを行ったところ自覚症状が著明に改善した.計8回施行後には,復職するまでに疼痛改善した.脊柱起立筋ブロックは術後鎮痛目的で超音波エコーガイド下に施行されることが多い.本症例ではX線透視下に行うことで,造影剤を併用し,血管や内臓を穿刺することなく安全に行えた.さらにブロック施行後CT撮影し,造影剤の広がりを確認した.造影剤が脊柱起立筋内で広範囲に広がっていたことから,本症例のこの時点の腰痛は筋・筋膜性腰痛であり広範囲な後枝外側枝ブロックが有効であったと考えられる.今後,筋・筋膜性疼痛が疑われる慢性腰痛症例に対して,外来で安全にできるX線透視下脊柱起立筋ブロックを試してみる価値があることが示唆された.

  • 天日 聖, 谷口 巧
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻1 号 p. 99-102
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/03/04
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    急性下肢動脈閉塞術後の下腿コンパートメント症候群(CS)に対して減張切開を行った後の疼痛コントロールに末梢神経ブロックが著効した症例を報告する.患者は56歳の男性,X−1日に左膝色調不良を認め,X日に左総大腿動脈の急性下肢動脈閉塞と診断され緊急下肢血栓除去術が施行された.術後,ICUにて左下腿CSを認め減張切開を2回施行した.フェンタニルで疼痛コントロールを行ったが,フェンタニルを増量しても疼痛コントロールが困難であったため,X+2日目に超音波ガイド下に末梢神経ブロック(左伏在神経・左坐骨神経ブロック:膝下部法)を施行した.施行後,下腿の疼痛は軽快しフェンタニルを減量,中止できた.ICUにおいても薬物による疼痛コントロールが困難な場合,全身状態の安定化に十分寄与することが期待される症例では末梢神経ブロックを積極的に考慮すべきである.

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