日本ペインクリニック学会誌
Online ISSN : 1884-1791
Print ISSN : 1340-4903
ISSN-L : 1340-4903
症例
BurstDRTM刺激が有効で経時的に刺激オフ時間を延長できたCPSP症例
石本 大輔高雄 由美子緒方 洪貴橋本 和磨永井 貴子廣瀬 宗孝
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2022 年 29 巻 3 号 p. 23-26

詳細
Abstract

脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)は中枢性脳卒中後疼痛(central post-stroke pain:CPSP)に対してpoor indicationとされているが,CPSPに対してBurstDRTM刺激が有効で,かつ経時的に刺激間隔(刺激オフ時間)を延長できた症例を経験したので報告する.【症例】60歳女性,右脳梗塞後に出現した左半身の疼痛に対して,投薬およびブロック療法は効果がなかったため,脊髄刺激療法目的で当科に紹介受診となった.SCSトライアルを施行したところ,BurstDRTMモードが有効であったため植え込み術を施行した.刺激オフ時間の延長は,SCSの問題点となっている慣れや耐性の解決策の一つであることから,経時的に刺激間隔を30秒オン,90秒オフから360秒オフまで延長したが,刺激開始時と同等の効果が得られている.【結語】BurstDRTMモードが有効であったCPSPを経験した.効果を減じることなく,経時的に刺激オフ時間を90秒から360秒まで延長することができた.

I はじめに

脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)は,硬膜外腔に電極を挿入し脊髄後索に微弱な電気刺激を加えることにより痛みを緩和する方法である.2009年に発表されたBritish Pain Societyのレビューによると,SCSのgood indicationは,腰椎頚椎術後痛,CRPS,末梢血流障害,末梢神経障害とされており,中枢性脳卒中後疼痛(central post-stroke pain:CPSP)といった脊髄由来でない中枢痛はpoor indicationとされている1).CPSPとは,視床や被殻などの体制感覚伝導路が脳出血や梗塞によって障害された後に発症する神経障害性疼痛で難治性である.ところが近年SCSにはさまざまな刺激方法が開発され,これまであまり効果がないとされてきたCPSPでも有効であることが報告されるようになってきた2).今回われわれは,CPSPに対してBurstDRTM刺激が有効で,かつ経時的に刺激間隔(刺激オフ時間)を延長できた症例を経験したので報告する.

なお,本症例報告に関しては患者本人に説明し,承諾を得ている.

II 症例

60歳,女性.身長:152 cm,体重:65 kg.

既往歴:高血圧,糖尿病で内服加療中.

X−3年3月に右脳梗塞を発症した.左半身麻痺に対してリハビリテーションを行っていたが,8月ごろより左臀部から下肢にかけての疼痛が出現.その後痛みは左肩から上肢にも拡大した.近医で投薬や硬膜外ブロック,トラマール製剤,プレガバリン,デュロキセチン,抑肝散や五苓散などの処方を受けたが無効であった.X年6月にSCS希望で紹介受診となった.

初診時所見:疼痛部位は左半身で臀部がもっとも痛く,次に肩から上肢,そして下肢の順であった.痛みは視覚アナログスケール(visual analogue scale:VAS)98/100であった.左半身の感覚は5/10程度で,疼痛の強い部位にはアロデニアを認めた.左半身の運動機能は低下しており,装具と補助具を用いて多少は歩行できる程度であった.初診時の血液検査では,HbA1c 6.9以外は問題なかった.また持参していた頚椎,腰椎のMRI検査でも特記すべき所見はなかった.

当院初診時に行った心理テストの結果は,PCS:反芻20/20,無力感20/20,拡大視12/12,合計52/52,HADS:抑うつ9/21,不安6/21という結果であった.

内服薬:デュロキセチン20 mg,ブプレノルフィン経皮吸収型製剤10 mg.

治療経過:X年7月にSCSのトライアルを施行した.メドトロニック社製の8極リードを2本用いて,1本目はL1/2から穿刺し,先端の電極位置C2正中やや左側に留置,2本目は同じ椎弓間からの挿入が困難であったためL2/3から穿刺し,先端の電極位置をTh9正中やや左側に留置した(図1).電極の留置位置の決定は,今回左上下肢は感覚低下が強く,試験刺激で疼痛部位のパレステジアを得ることは困難であった.まず試験的に電極を正中から健側よりに留置して電気刺激した際に得られたパレステジアの部位を参考にし,正中をはさんで患側に留置とした.留置後の刺激は,まず高頻度刺激(1,200 Hzのパレステジアフリー)から開始した.やや痛みの軽快傾向はあるものの,本人の満足度が低かったため,1週間経過後に変換器を用い,アボット社のBurstDRTM刺激に変更した.刺激開始2日後から左上肢の痛みは軽快し,左臀部の強い痛みもVAS 70程度まで改善が認められた.

図1

頚椎・胸椎におけるリード位置

左:頚椎におけるリード位置,先端はC2に留置.

右:胸椎におけるリード位置,先端はTh9に留置.

本人も植え込み術を希望したが,アボット社のSCSデバイスはMRI撮像の条件にリードの先端がTh7以下であることという条件がある.このため脳梗塞をフォローアップしている脳神経外科主治医に連絡し事情を説明したところ,今後の画像評価は頭部CT検査で可能であるとの回答を得たため,X年11月に植え込み術を施行した.植え込みはアボット社のデバイス(2本リード,非充電型ジェネレーターProclaimElite®)を用い,トライアル時と同位置に留置した.術後はBurstDRTMで刺激開始した.

術後経過:植え込み後のSCSの設定はBurstDRTMモード,刺激部位は頚椎留置電極3–5+とし,0.2 mA,30秒オン,90秒オフとした.頚椎留置の電極の刺激のみで,痛み自体はVAS 100から70の減少にとどまるものの,ADLが改善し,歩行距離が延長し,これまで行けなかった旅行に行けるようになったなどと本人の満足度は高かった.また当院受診前から使用していたブプレノルフィン経皮吸収型製剤も中止している.その後も引き続き疼痛コントロールは良好であったため,植え込み1年後から刺激オフの時間を延長した(図2).X+2年2月の時点でバースト刺激間隔は30秒オン,360秒オフまで延長しても効果は変わらず維持できている.

図2

治療経過,痛みの変化(VAS)とSCSの刺激オフ時間の推移

青の線がVAS,オレンジの棒グラフが刺激オフ時間の経過を表す.

III 考察

CPSPは難治性疼痛であり,薬物療法や通常の神経ブロック療法にも反応不良であることが多い.これまでいろいろなニューロモデュレーションが試されてきた.脳深部刺激療法(deep brain stimulation:DBS)や運動野電気刺激療法(electrical motor cortex stimulation:EMCS)なども行われるが,DBSのCPSPに対する有効率は約30%,EMCSの有効率は約50%と報告されている3).しかしながらこれらの治療は,穿頭や小開頭が必要であるため,SCSのように容易に試験刺激ができない.SCSは,これまでCPSPにはあまり効果がないとされており,前述のようにBritish Pain Societyのレビューでもpoor indicationと位置付けされてきた.近年SCSにはこれまでのトニック刺激に加えて,高頻度刺激やバースト刺激などが加わり,これまで有効でなかった疾患への有効例が報告されるようになってきた4,5).CPSPでは疼痛部位の感覚低下があるため,パレステジアを疼痛部位に合致させることが困難であり,後索を刺激しパレステジアを得ることにより効果の得るトニック刺激は鎮痛効果を得られることが困難であった.しかしながら高頻度刺激やバースト刺激は,これまでのトニック刺激と異なるメカニズムで作用すると考えられ,パレステジアフリーでも効果を発揮する.BurstDRTM刺激は,視床中継ニューロンのバースト発火に似せた刺激方法で,パルス幅1 msの刺激を1 msの間隔で5回うち,これを40 Hzで繰り返す6).その後,定期的に外来でフォローアップを行い,痛み・ADL共に改善傾向にあったため,海外でのスタディーを参考にして刺激のオフ時間の延長を試すことにした7).この論文では,トライアルでBurstDRTM刺激の有効な患者群に植え込み術を施行し,まずオフ時間を360秒に設定し,効果が得られなければオフ時間を減らしていったところ,45.8%が360秒オフ時間で十分に有効であったとしている.オフ時間の延長の目的は慣れ(habituation),耐性(tolerance)の予防と電池寿命の延長である.長期間にわたってSCSを使用していると徐々に鎮痛効果が弱まることがあり,これを慣れや耐性と呼んでいる8).SCSで慣れや耐性が生じてきた場合には,刺激条件や刺激方法の変更が必要であるとされている.また刺激強度が弱いほど起こりにくいとされている9).刺激強度は電池の寿命にも関係する.今回のわれわれの症例では30秒オン90秒オフに設定し,その後オフ時間を延長していったが,360秒に延長しても患者の痛みの程度や満足度は変化しなかった.

今回われわれが使用したBurstDRTM刺激は,これまでのトニック刺激で効果のなかったCPSPなどにも有用である可能性が高いが,CPSPは上肢の痛みも伴うことが多く,電極の留置を頚椎に行うことが多い.現在のBurstDRTM刺激は上位胸椎以上に留置するとMRI検査が不可能であるが,CPSPはフォローアップでMRI検査を行うこともあるので,デバイスのMRIの適応拡大は今後の課題と考える.

IV 結語

CPSPに,BurstDRTMが有効であり植え込み術を施行した.

経時的に刺激オフ時間を延長したが,痛みのコントロールは良好に得られた.

BurstDRTMの刺激オフ時間延長は,SCSの問題点の一つである慣れや耐性の解決策の一つとなりうる,また電池の消耗の観点からも有用である.

本症例報告の要旨は,日本ペインクリニック学会第54回大会(2020年11月,Web開催)において発表した.

文献
 
© 2022 一般社団法人 日本ペインクリニック学会
feedback
Top