2022 年 29 巻 8 号 p. 177-181
【序言】当施設では難治性疼痛患者に対する治療選択の指標の一つとしてフェンタニル静注試験を行い,オピオイドの有効性評価および治療法の選択を行っている.本研究では帯状疱疹関連痛患者に対する,フェンタニル静注試験の結果とその後の疼痛治療について検討した.【方法】2015年1月から2021年1月までに帯状疱疹関連痛に対してフェンタニル静注試験を行った症例について,投与前後で疼痛スコアが半減したものを有効とした.発症からの時期による,フェンタニル静注の効果,副作用およびその後の治療と経過について後ろ向きに検討した.【結果】フェンタニル静注試験を施行した帯状疱疹急性期の20例中11例(55%),亜急性期31例中20例(65%),慢性期20例中14例(70%)で鎮痛効果を認めた.有効例では45例中42例でオピオイド製剤による治療が行われた.無効例のうち,すでに他院にてオピオイドが処方されていた8例中6例で試験後に中止された.【結論】帯状疱疹関連痛においてフェンタニルは時期によらず鎮痛効果を示した.当施設ではフェンタニル静注試験の結果に応じてオピオイド処方の必要性を判断している.
Introduction: This study investigated the results of a fentanyl test to evaluate the efficacy of opioids and select a treatment regimen for patients with intractable herpes zoster-associated pain (ZAP). Method: We studied 71 patients who underwent a fentanyl test for ZAP between January 2015 and January 2021. Subjects with pain reduction of greater than 50% on a numerical rating scale were considered to be sensitive to fentanyl. We examined the analgesic effects, side effects, and treatments for pain following the fentanyl test. Results: Fifty-five percent of patients in the acute phase, 65% in the subacute phase, and 70% in the chronic phase were sensitive to fentanyl. Ninety-three percent of sensitive patients were treated with opioids after the test. In 75% of the non-sensitive patients, the prescription of opioids was discontinued. Conclusion: Fentanyl showed an analgesic effect in ZAP regardless of the disease duration after onset. In our institution, we determine the opioid treatment for ZAP according to the result of the fentanyl test.
帯状疱疹関連痛は急性期では水痘・帯状疱疹ウイルスによる炎症性疼痛が主体となり,一般的に侵害受容性疼痛の要素が強い.また慢性期には水痘・帯状疱疹ウイルスによって神経が障害されて生じる神経障害性疼痛の要素が強くなると考えられている1).しかし,急性期であっても侵害受容性疼痛治療薬が奏功しない症例や,慢性期においても神経障害性疼痛治療薬が奏功しない症例があり,治療に難渋する場合も少なくない.
当院ペインクリニックでは,主に他院での診断および治療が行われた後に,疼痛治療に難渋した症例が紹介受診をされる.そのため,多くの症例ではすでにオピオイドを含めたさまざまな鎮痛薬の処方が行われている.そこで難治性疼痛患者への投薬の有効性を評価する一つの指標として,フェンタニルを用いた静注試験を施行している.フェンタニルによる鎮痛効果および副作用を評価することで,疼痛患者に対するオピオイドの有効性の評価およびその後の治療法の選択を行っている.
今回,帯状疱疹関連痛患者におけるフェンタニル静注試験の結果およびその後の疼痛治療について後ろ向きに検討したので報告する.
本研究は神戸大学医学部附属病院臨床研究倫理委員会の承認を得ている(承認番号:B210270).また,当院ペインクリニック外来における疼痛患者に対するフェンタニル投与は院内の医療安全委員会の承認を得ている.2015年1月から2021年1月までに,神戸大学医学部附属病院ペインクリニック外来において,帯状疱疹関連痛に対してフェンタニル静注試験を受けた患者を対象とした.評価項目は,①帯状疱疹発症からの経過期間,②疼痛に対するフェンタニル静注試験の効果,③副作用,④試験後の処方とその後の経過についてカルテより情報抽出を行った.なお,①の帯状疱疹発症からの経過期間は1カ月未満を急性期,1カ月以降4カ月未満を亜急性期,4カ月以降を慢性期と定義した.
当施設で行うフェンタニル静注試験は,フェンタニル100 µgを生理食塩水100 mlで希釈し,30分かけて点滴静注する.同時に嘔気予防のために,メトクロプラミド10 mgを2回に分けて投与する.痛みの指標(numerical rating scale:NRS)を用いて試験の前後で評価し,試験後に痛みがNRSで50%以上軽減した症例を有効,それ以外を無効とした.なお,フェンタニル静注試験においては,呼吸抑制や嘔気・嘔吐などの副作用への対応が遅れることのないように,パルスオキシメーターおよび非観血的血圧測定下に,蘇生用具を準備して行った.
次回診察時の疼痛症状は,患者の自己申告に基づいたカルテ情報より抽出した.
年齢,疼痛スコア,発症からの週数は中央値(四分位範囲)で示した.統計学的処理は,各群間の患者背景はMann-Whitney試験,各時期における有効率についてはANOVA解析を行い,p<0.05を有意とした.
対象となった症例は71例であった.患者背景を表1に示す.対象となった症例はすべてNRS 4以上であった.フェンタニル静注試験の結果が有効であった症例は45例(63%),無効であった症例は26例(37%)であった.フェンタニル静注試験の効果における性差および年齢差は認めなかった(p=0.62,p=0.85).試験前のNRSの中央値(四方位範囲)はそれぞれ有効群10(7.75~10),無効群10(7.5~10)で有意差は認めなかった(p=0.83).また,有効症例における発症からの週数の中央値は7.3週(4.6~23.1),無効症例における中央値は5.5週(4.0~11.1)(表1)であり,有意差を認めなかった(p=0.27)(表1).
有効 | 無効 | ||
---|---|---|---|
性別(人) 男 | 24 | 16 | p=0.62 |
女 | 21 | 10 | |
年齢(歳) | 74(69~78) | 74(67.5~81) | p=0.85 |
疼痛スコア(NRS) | 10(7.75~10) | 10(7.5~10) | p=0.83 |
発症からの週数 | 7.3(4.6~23.1) | 5.5(4.0~11.1) | p=0.27 |
年齢,疼痛スコア,発症からの週数は中央値(四分位範囲)で示した.各群間でMann-Whitney試験を行い,p<0.05を有意とした.
帯状疱疹発症からの経過で比較すると,急性期では20例中11例(55%),亜急性期では31例中20例(65%),慢性期では20例中14例(70%)でフェンタニル静注試験が有効であり,時期による有効率に有意差は認めなかった(p=0.61)(図1).フェンタニル投与による副作用は全体で嘔気3例(4.2%),浮遊感4例(5.6%),傾眠8例(11.3%)を認めたが,試験の中断を要した症例は嘔気,嘔吐による1例であった.
帯状疱疹発症からの経過期間ごとのフェンタニル静注試験の結果
フェンタニル静注試験が有効な症例のうち,急性期,亜急性期では全症例でオピオイドが処方(以下継続,増量,開始を含む)されたが,慢性期では14例中10例(71%)で処方された(表2).また,オピオイド製剤としては42例中38例(90%)でトラマドール製剤が処方された.トラマドール製剤による副作用の既往がある症例に対して,2例(4.8%)でフェンタニル貼付剤,1例(2.4%)でオキシコドンが処方された.オピオイドが処方された症例のうち,長期的な経過を確認できた38例中35例(92%)では半年以内に漸減,中止されていた.またフェンタニル静注試験が無効であった症例では,26例中25例(96%)でカルシウムチャネルα2δリガンド,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin noradrenaline reuptake inhibitor:SNRI),三環系抗うつ薬の神経障害性疼痛治療薬が単独もしくは併用して処方されていた.併せてトラマドール製剤が処方された症例は3例で,いずれも急性期,亜急性期であった(表2).また無効であった症例のうち,他院からすでに処方されていたオピオイドは,8例中6例で中止された.試験後の次回診察時には,全体として77%の症例で疼痛が軽減した.
処方内容 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
NSAIDs アセトアミノフェン |
Ca チャネルリガンド |
SNRI | 三環系抗うつ薬 | オピオイド | ||
有効 (45例) |
急性期(11例) | 7(64%) | 7(64%) | ― | ― | 11(100%) |
亜急性期(20例) | 9(45%) | 16(80%) | 4(20%) | ― | 20(100%) | |
慢性期(14例) | 4(29%) | 9(64%) | 6(43%) | ― | 10(71%) | |
無効 (26例) |
急性期(9例) | 6(67%) | 9(91%) | 4(64%) | 2(22%) | 2(22%) |
亜急性期(11例) | 5(45%) | 10(91%) | 7(64%) | 2(18%) | 1(9%) | |
慢性期(6例) | ― | 5(83%) | 3(50%) | 1(17%) | ― |
帯状疱疹関連痛は急性期から慢性期にかけて,痛みの性質が変化する.急性期には侵害受容性疼痛の要素が強く,慢性期には神経障害性疼痛の要素が強くなると考えられている1).急性期に認める侵害受容性疼痛の代表的な治療薬は,非ステロイド系抗炎症薬やアセトアミノフェンに追加して,激しい疼痛においてはオピオイド製剤を含む侵害受容性疼痛に対する投薬を考慮する.一方,慢性期にはカルシウムチャネルα2δリガンド,抗うつ薬などを中心とした神経障害性疼痛治療薬の投薬が中心となる.しかし本研究の結果からは,帯状疱疹関連痛に対するフェンタニル静注試験において,急性期では55%の症例で有効である一方,亜急性期では65%,慢性期では70%の症例で有効であった.統計的な有意差は認めず,発症からの経過期間からだけでは,オピオイドの有効性を予想することは困難であることが示唆された.急性期においても侵害受容性疼痛要素が早期に消退する例や,慢性期においても侵害受容性疼痛の要素を含む例があり,急性期から慢性期に至るまで,侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の組み合わせが持続していることが考えられる.また,オピオイドが無効である難治性疼痛の中には痛覚変調性疼痛の要素も含まれる可能性が考えられる.
当施設において,難治性疼痛に対するオピオイドの有効性の評価のためにはフェンタニルを用いている.その理由は,腎機能障害により作用が遷延するリスクが低いためである.さらにフェンタニルではシミュレーターを用いた血中濃度予測が可能であることがあげられる.当施設で行うフェンタニル静注試験後の血中濃度は,シミュレーターを用いた計算によると,例えば,体重50 kgの人に対し,フェンタニル100 µgを30分かけて静注した場合に,投与終了時の血中濃度はおよそ1.7 ng/mlと予想される.オピオイド換算表によると,フェントステープ4 mg,オキシコンチン80 mgに相当する.またトラマドール製剤では最大処方量(300 mg)に値する濃度よりも高く(表3),オピオイド製剤を処方する際の目安として用いることも可能と考えられる.また投与終了後の血中濃度の推移と副作用の有無や程度を観察することで,その後の治療としてオピオイド製剤を用いる際の副作用のリスクを考慮することができる.
フェンタニル血中濃度 | 0.5~1 ng/ml | 1.5~2 ng/ml | |
↓ | ↓ | ||
フェントステープ® | 1 mg | 2 mg | 4 mg |
オキシコンチン® | 20 mg | 40 mg | 80 mg |
トラマール® | 150 mg | 300 mg |
体重50 kgの場合:フェンタニル100 µgを30分かけて静注した直後の血中濃度予測値→1.7 ng/ml.
文献6)より改変引用.
これまでに帯状疱疹後神経痛や他の神経障害性疼痛に対してオピオイドが有効であるという報告はある2–4)が,いずれも小規模な研究であることからエビデンスとしての価値は高くない.また,オピオイドの長期使用のリスクから処方には細心の注意が必要とされ,慢性期の帯状疱疹後神経痛には使用を避けるべきとされる5).当施設では,オピオイド処方に際しては中毒や依存などのリスクを念頭に,一時的な使用に限って有効な治療法として使用している.慢性期であってもオピオイドが著効する症例では,疼痛の悪循環を断ち切る目的で処方を考慮し,オピオイドの長期的な使用にならないように,神経ブロックや脊髄刺激療法などによる多面的なアプローチを行っている.
本研究では,処方されたオピオイドの92%は半年以内に中止されていた.また難治性疼痛に対してすでに他院で処方されたオピオイド製剤は,フェンタニル静注試験が無効であった症例では中止され,Caチャネルリガンド,SNRI,三環系抗うつ薬を中心とした治療が行われた.
当施設ではオピオイド製剤としては,トラマドールを主に使用している.本研究では実際の処方は各臨床医の裁量に任されており,トラマドールの内服にて副作用の既往のある症例に対して,他のオピオイド製剤が処方されていた.トラマドール製剤は慢性疼痛に対する適応であるが,医療安全委員会の承認のもと,われわれは帯状疱疹関連痛(急性期,亜急性期)に対してもトラマドール製剤の処方を行っている.オピオイド製剤として,主にトラマドール製剤が処方されていることから,その有効性を調べるためにはトラマドール静注製剤を使用した試験を施行することも考慮する必要がある.
本研究は後ろ向き観察研究であるため,すべての帯状疱疹関連痛患者に適応されたものではなく,症例ごとに各臨床医の判断によって行われた.また本研究にはフェンタニル静注試験が有効であってもオピオイドが処方されていない症例も含まれていることから,今後は治療法の選択,処方量の調整方法を明確化し,統一する必要がある.また,全体で77%の症例で次回診察時に疼痛軽減を認めたものの,有効症例では44%,無効症例では50%で同日に神経ブロックが行われており,疼痛の軽減が本試験に基づいた疼痛治療薬選択だけに起因するとは言えない.フェンタニル静注試験を施行することで,有効な治療法の選択ができたかどうかは,フェンタニル静注試験を施行していない症例との比較検討が必要であることから,本研究において言及することはできない.今後は本試験結果に基づき,対象症例および治療介入方法を明確化し,フェンタニル静注試験をしない症例に対する優位性を評価するための前向き研究が必要である.
今回,帯状疱疹関連痛に対するオピオイドの有効性を調べるためにフェンタニル静注試験を行った症例について,後ろ向き観察研究を行った.難治性疼痛の治療介入において治療法の方向性を考慮するうえで,一つの補助手段として利用できると考えられる.
本論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第55回大会(2021年7月,富山)において発表した.