日本ペインクリニック学会誌
Online ISSN : 1884-1791
Print ISSN : 1340-4903
ISSN-L : 1340-4903
症例
胸骨正中切開後に発症した両側上肢の複合性局所疼痛症候群に対して集学的疼痛治療を行った1症例
井ノ上 有香前田 愛子中山 昌子山本 美佐紀白水 和宏山浦 健
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2022 年 29 巻 9 号 p. 202-205

詳細
抄録

【症例】68歳の男性.現病歴:胸骨正中切開による僧帽弁置換術と左内胸動脈を用いた冠動脈バイパス術後より左前腕内側と尺側手指の痺れを伴う疼痛が出現した.手術2カ月後には右側にも同様の症状が出現した.薬物療法が開始されたが同部位の疼痛増強や筋力低下が出現したため,手術4カ月後に当科紹介受診となった.初診時現症:両前腕から手指にかけての疼痛,アロディニア,手指関節拘縮,運動障害,浮腫があった.厚生労働省研究班による判定基準を満たし,複合性疼痛症候群と診断した.治療経過:薬物療法に加えて超音波ガイド下腕神経叢ブロック,リハビリテーションおよび痛みの認知教育による集学的疼痛治療を行い,両手指の疼痛や関節の拘縮,運動障害は著しく改善した.【まとめ】本症例は,胸骨正中切開後に腕神経叢損傷が生じ,その後両上肢の複合性局所疼痛症候群に移行したと考えられた.胸骨正中切開後に生じる腕神経叢損傷の危険因子は内胸動脈採取などが報告され本症例でも該当する.比較的予後良好とされるが,難治性疼痛に移行する可能性があることを認識し早期の集学的治療を考慮することが重要である.

著者関連情報
© 2022 一般社団法人 日本ペインクリニック学会
前の記事 次の記事
feedback
Top