日本ペインクリニック学会誌
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症例
3D-CT画像ナビゲーションと超音波ガイドを併用して舌咽神経ブロックを行った1症例
大岩 彩乃川村 大地八反丸 善康中村 瑞道山名 慧大橋 洋輝倉田 二郎
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2023 年 30 巻 3 号 p. 37-41

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Abstract

舌咽神経ブロックは内頚動静脈が近傍に存在するため,大血管穿刺の危険性が高い神経ブロックである.特発性舌咽神経痛に対し,3D-CTおよび超音波診断装置を併用した手技にて舌咽神経ブロックを行い良好な効果を得た1例を経験した.舌咽神経ブロックに対する,透視下もしくは3D-CTナビゲーション下の神経ブロックは,立体解剖学的な部位を確認しやすい利点がある一方で,周囲血管の視認が困難という欠点がある.今回用いた,同一画面上に超音波診断装置から得られた画像を3D-CTナビゲーション画像と併用する手技にて行う舌咽神経ブロックは,いずれか単一の方法より安全性が高い可能性がある.

Translated Abstract

Glossopharyngeal nerve blockade involves a high risk of erroneous puncture of nearby blood vessels including the internal carotid artery and jugular vein. We encountered a case of idiopathic glossopharyngeal neuralgia in which effective glossopharyngeal nerve blockade was performed using a combination of 3D-CT navigation and ultrasonographic guidance. While 3D-CT navigation has the advantage of exact confirmation of bony structures, its disadvantage of difficult visualization of blood vessels was compensated by ultrasonography, leading to a safer procedure. Glossopharyngeal nerve blockade with hybrid guidance using 3D-CT and ultrasonography might potentially add both accuracy and safety of conventional procedures.

I はじめに

舌咽神経ブロックは,X線透視13),超音波ガイド47),3D-CTナビゲーション8)など,いずれかを単独で用いて施行した報告があるが,3D-CTナビゲーションと超音波ガイドを併用する方法(ハイブリッド法)を用いた報告はない.

今回,われわれは特発性舌咽神経痛(glossopharyngeal neuralgia:GPN)に対して,ハイブリッド法を用い,安全かつ正確に舌咽神経ブロックを行うことができたので報告する.

本症例の報告には書面で患者および家族から同意を得ており,所属施設の倫理委員会にも報告している.

II 症例

80歳代,男性.身長156 cm,体重45 kg.6カ月前に右咽頭から右側頚部,右耳介にかけた痛みが生じた.過去数年おきに似た咽頭痛を経験していた.嚥下や食事による誘発痛の頻度が毎日数十回に増加し,他に口腔外科,耳鼻科,脳神経外科,皮膚科などで原因が分からず,受診した.失神歴はなかった.初診時,嚥下時に出現する咽頭痛と右耳介後部に放散する針で刺されるような痛みの訴えがあり,視覚アナログスケール(visual analogue scale:VAS)は95/100であった.脳神経学的異常を認めず,茎状突起の過長を含め頭蓋内の器質的病変は認めず,GPNが疑われ治療が計画された.

8%リドカインの右口蓋扁桃根部への噴霧は,一時的効果があり,再現性もみられた.並行してプレガバリン50 mg/日内服による薬物療法を開始し,眠気のため3週間目からミロガバリン10 mg/日に変更した.

さらに4週間後に舌咽神経舌枝9)へのブロック注射として,1 mlシリンジと26ゲージ針を用い,右側口蓋扁桃根部に1%メピバカイン1 mlを注入し,施行直後にVAS 60/100の一時的効果を得た.そのため,5週目,6週目には同部位を42度6分の高周波パルス(PRF)療法を行った.数日間効果があったが,充分な満足は得られず,また内服薬の中止希望があったため,舌咽神経ブロックを行う方針となった.

超音波診断装置はSONIMAGE HS2®(コニカミノルタ社製),トランスミッター,コンベックスプローブC5-2®(コニカミノルタ社製)を使用した.3D-CTは,Dyna CT®システム(フラットディテクタ搭載Cアーム本体,画像処理ワークステーション,画像モニタと制御用コントローラから構成,シーメンス社製)を使用した.また,パルス高周波発生装置としてトップリージョンジェネレーターTLG-10®(トップ社製)を使用した.長沼らの側頚部法に準じた方法10)で準備した.体位は腹臥位とし,顔は患側水平方向へ約20度傾け,刺入点を乳様突起先端と下顎角の中点8)とし,3D-CTを撮影した.到達目標点は茎状舌咽筋付着部と想定される茎状突起先端1/3の点5,8)に計画した.3DCT画像から刺入点(乳様突起先端と下顎角の中点を3DCT再構成して得た点)と目標点へ刺入計画線(ニードルガイド線)を作成したところ,深さ2.37 cmであった(図1).皮膚への局所麻酔を1%リドカイン1 mlにて施行し,超音波診断装置にて穿刺経路に血管がないことを確認した.超音波ガイド下にニードルガイド線に沿って22Gスライター針(22G 53 mm,トップ社製)を刺入し(図2),針先が茎状突起に固定されたのちに100 Hz 0.4 Vの電気刺激を加えつつ,ゆっくりと針先を数mm進めたところ,再現痛を得た.血管造影のないことを確認し1%キシロカイン0.5 mlを注入後に42度360秒の通電を行い,最終の針の位置を3D-CT撮影し終了した.皮膚からの深度は2.4 cmであった.特に合併症を認めず,翌日退院し,術後経過は良好であった.施行翌日VAS 53/100 mmと痛みの緩和が得られ,突発痛は消失した.1カ月後の再診時はVAS 20/100 mm,現在に至るまで再発はみられておらず,内服薬は全て中止できている.

図1

3DCT画像から作成したニードルガイド線(刺入計画線)

A:乳様突起と下顎角のそれぞれ頂点を結んだ中央点を刺入点とし,到達目標点は茎状突起先端から根本までの約1/3の点に計画している.皮膚から目標点の計測を前額断像にて計測した図.

B:Aのニードルガイド線を,刺入方向から確認した図.この時の管球角度はLAO 22.7度,Caudal 35度であり,この計測された角度に合わせて管球角度を振れば,Bの図で針を進められる計画ができる.*は茎状突起先端.

C:Aのニードルガイド線の冠状断画像.図2に示す超音波画像と近い位置関係の画像となる.

D:CTから得られたニードルガイド線の3D画像.

図2

穿刺中の透視画像および超音波ガイド画像

A:舌咽神経ブロック中の透視画像.図1で示した,管球角度はLAO 22.7度,Caudal 35度に設定すると,針の刺入経路は透視画像上にほぼ点で示される.透視画像上に円でニードルガイド線の目標点が示されており,目標点に向かって針は刺入されている.

B:超音波画像(Mp:乳様突起,Man:下顎角,Sp:茎状突起,ECA:外頚動脈,N:施入経路と針先端).この画像上のエコービームの入射角と針の刺入経路と一致するようにエコーが当てられているため,図ではエコー中央から真下に向かって針が刺入されている.

図3

パルス高周波施行中の3DCT画像

針は茎状突起と接触している.造影剤は茎状舌骨筋に沿い尾側へ流れ,針先が茎状舌骨筋付着部に接していることが分かる.また,血管造影はされていないことが判断できる.

III 考察

咽頭痛を生じる疾患として外傷,咽頭炎,シェーグレン症候群,口腔内感染症,Plummer-Vinson's syndrome,腫瘍,GPNなどが挙げられる.本症例では高解像度MRIとMR angiographyの画像にてroot entry zone(REZ)の血管による神経圧迫がなく舌咽神経舌枝への局所麻酔薬投与で疼痛緩和を得たこと11)からGPNと診断した.

透視下の舌咽神経ブロックの問題点として,茎状突起自体が薄く小さい構造物で視認が難しく12),周囲には内頚動静脈が走行し血管穿刺の危険性が大きいことが挙げられる.超音波ガイドでは,得られた画像は2D情報であるため,茎状突起上の針先の位置把握は困難である.ハイブリッド法では,部位の特定に3DCTを用い,さらに刺入経路の血管穿刺回避に超音波ガイドを用いることで,効率的かつ安全に舌咽神経ブロックが施行できた点である.正確性の向上については,CTガイド下で施行する方が透視下より正確性が向上するという報告8)がある.

被曝を避けるため,超音波ガイド下で施行する手技が近年報告されている4,5).Liuらはコンベックスプローブを使用して乳様突起と下顎角を結んだ線から下顎角の尾側1.5 cmの位置で内頚動静脈と茎状突起を識別し穿刺した.またAžmanら5)は献体における超音波ガイド下舌咽神経ブロックも行い,薬液の到達部位を色素注入し調べているが,舌咽神経は茎突咽頭筋と中咽頭収縮筋の間で必ず確認され,皮膚から咽頭壁までの平均距離は,右側で2.03(SD,0.41)cm,左側で2.02(SD,0.45)cmとの結果を得ている.茎状突起における茎突咽頭筋の付着部はAžmanらの注入部位よりやや深部としても,本症例での皮下2.4 cmで施行できたという結果は,これらの報告と矛盾せず,位置として妥当であったと考える.

今回の方法は,超音波ガイド単独の方法に比べ,2つの利点があった.1つ目は,造影剤の使用による小血管穿刺の回避である.超音波ガイド単独のLiuらの報告4)では,12患者のうち2患者が高血圧・頻脈・興奮・耳閉感を訴えており,考察では大きな血管穿刺による局所麻酔中毒の危険が述べられている.2つ目は,超音波ガイドでよく可視化できるのは茎状突起の先端に近い部分であり,位置特定には透視が有利である点である.より深い舌咽神経本幹に近い部位で穿刺すると,超音波での描出は困難になり血管穿刺のリスクが増すというジレンマがある.周囲の骨構造の把握は透視併用の利点である.

逆に欠点としては,被曝量や施行時間が挙げられる.施設ごとに装置や設定も異なり一概には言えない.今回は,作図11分,エコースキャン3分,穿刺開始から終了まで約25分,その他の時間含めてトータル約50分,被曝量は76.2 mGyであり,少ない侵襲ではなかった.当院で用いるARTIS pheno®ナビゲーションによる近い部位の手技として,頚椎への穿刺では,皮膚の吸収線量は平均40.7±34.9 mGyと報告があり13),撮影条件等の参考とした.今後,被曝量と時間が最小限になるよう,さらなる工夫をする必要がある.

また,本症例ではPRFを用いたことがその後の症状緩和に大きく関与した.GPNについても,PRFが有効とする症例報告5,14)が多く存在する一方で,複数回のPRFを必要とした症例も報告されている.既報においてPRFが複数回必要となった要因には,技術的な困難さが影響した可能性もある.

解剖上,舌咽神経[IX]のうち三叉神経脊髄路核に終止する求心性線維が痛みに関与する.舌咽神経本幹は上神経節・下神経節を形成し,内頚動脈と茎突咽頭筋の斜め後方を下行し,前方の咽頭や扁桃および舌後1/3,聴器の一部を支配する15).超音波診断装置が改良されれば,茎突咽頭筋など深部の構造を描出でき,また3DCTの時間短縮や目標物に合わせた低被曝のプロトコルが開発されることで,さらに正確で低侵襲の舌咽神経ブロックの施行に繋がる可能性がある.

今後も画像技術を積極的に取り入れ,舌咽神経ブロックの精度を向上させる手技について検討を重ねたい.

文献
 
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