舌咽神経ブロックは内頚動静脈が近傍に存在するため,大血管穿刺の危険性が高い神経ブロックである.特発性舌咽神経痛に対し,3D-CTおよび超音波診断装置を併用した手技にて舌咽神経ブロックを行い良好な効果を得た1例を経験した.舌咽神経ブロックに対する,透視下もしくは3D-CTナビゲーション下の神経ブロックは,立体解剖学的な部位を確認しやすい利点がある一方で,周囲血管の視認が困難という欠点がある.今回用いた,同一画面上に超音波診断装置から得られた画像を3D-CTナビゲーション画像と併用する手技にて行う舌咽神経ブロックは,いずれか単一の方法より安全性が高い可能性がある.
胸部帯状疱疹関連痛に対してintertransverse process block(ITPB)を行い良好な鎮痛効果が得られた2症例を経験したので報告する.症例1:78歳男性,初診15日前に左胸背部に皮疹が出現し,帯状疱疹の診断で薬物療法を受けたが効果が乏しく当科初診した.Th5レベルで超音波ガイド下ITPBを計5回行い,痛みが消失した.症例2:80歳男性,初診14日前に右腹部に皮疹が出現し,帯状疱疹の診断で薬物療法が開始されたが痛みの増悪があり当科初診した.Th10レベルで超音波ガイド下ITPBを計6回行い,痛みは徐々に減少した.薬物療法抵抗性の胸部帯状疱疹関連痛に対して,合併症なくITPBを施行し,良好な鎮痛が得られた.
腰部硬膜外腔癒着剥離術は脊椎手術後疼痛症候群などの慢性腰下肢痛で有用性が認められているが,急性期の神経根障害による下肢痛での報告はない.今回,硬膜外腔の癒着による急性腰部神経根症に対し腰部硬膜外腔癒着剥離術を施行し,痛みの軽減がみられた症例を経験したので報告する.症例は50歳台女性,受診3日前に発症した腰痛と右下肢痛で,手術歴はなかった.MRI画像では軽度椎間板突出のみで責任病変の特定が難しかった.神経ブロックを行ったが効果が一時的であった.仙骨硬膜外造影で硬膜外腔の癒着がみられ,神経根症の原因と考えられた.癒着剥離術を施行したところ,術後より症状の改善が得られた.急性期の腰下肢痛であっても硬膜外腔の癒着による痛みの可能性が示唆された.
集中治療では気管挿管を必要としない低侵襲の酸素療法や長期予後を見据えた早期リハビリテーションを取り入れ始めている.しかし,鎮静やオピオイド静注による鎮痛が多く行われてきたことから,体位療法やリハビリテーションの妨げとなる覚醒下の筋・骨格疼痛に対する鎮痛法の知識や経験が少ない.今回,それらにペインクリニックの関与が有効であった症例を集中治療の立場から紹介する.重度低心機能COVID-19重症肺炎の51歳男性に対し非侵襲的陽圧換気を施行した.腹臥位以外で酸素化維持が困難であったが首や肩,腰の苦痛が強く腹臥位の継続が困難となった.肝腎機能障害も合併しており鎮痛薬の使用が困難でペインクリニックに併診を依頼した.非ステロイド性抗炎症薬湿布が苦痛に著効し,腹臥位とリハビリテーションの継続が可能で,酸素化の改善がみられ気管挿管を回避することができた.集中治療とペインクリニックのチーム医療の重要性が示された症例であった.