1996 年 62 巻 9 号 p. 1267-1271
本論文では, 整数を変数に持つ任意の同次多項式の符号判定を一部のデータから行うための理論を述べた.具体的には, 同次多項式の係数, 項の数, 次数, 及び取り出すビット数を用いて容易に誤差限界値を出すことのできる理論を構築するとともに, 上位mビットの取り出し方について論じた.
ユークリッド空間での非同次多項式は, 同次空間では同次多項式になる.従って, 同次空間で処理を行う様々な幾何計算にこの理論を利用することができる.本論文では, 符号判定処理の対象を同次多項式としたが, 3章で述べたように非同次多項式は新たな変数を導入することによって同次多項式となるので, 符号判定処理は非同次多項式にも利用可能である.
本論文に基づく符号判定処理の理論を用いることにより, 多倍長整数演算に伴う効率の低下を防ぐことのできる無誤差演算が可能となる.今後は, ここに述べた理論を含め, 多倍長整数表現を用いて行列式・内積を高速に計算するプロセサの研究を進めていく予定である.